今月の糖尿病ニュース

2019年3月の糖尿病ニュース

40才未満で発症する2型糖尿病

おおはしクリニックIDF(国際糖尿病連盟)によると20才以上40才未満の2型糖尿病患者数は2000年全世界で全年令患者の13%に当たる2300万人でしたが、2013年には同16%の6300万人と推定されています(1)。また40才未満の2型糖尿病標準罹患率についても英国の調査によれば1996~2000 年100000人当たり217人から2006~2010年には同598人と増加しています(1)。

日本においては厚生労働省の平成28年国民健康・栄養調査結果によると20~39才で糖尿病が強く疑われる人は男性で1.3%(平成9年2.5%)、女性で1.9%(平成9年2.5%)、糖尿病の可能性を否定できない人は男性で2.2%(平成9年4.5%)、女性で0.7%(平成9年5.6%)と平成9年より減少しています。 しかしこの調査の解析対象者数をみると20才~39才は男性では全4582人中12.8%(平成9年22.9%)、女性では6609人中14.3%(平成9年26.7%)と高齢者に比し相対的に少なく若年成人糖尿病の実態を反映するのに十分かやや懸念されました。

人種差が大きく日本人では例え少数だとしても、日々の診療での実感は満足できるものではなく糖尿病合併症による個人的社会的(経済的)損失は大きく重大な問題であるため総説(1)から問題点を探り、最新の関連論文も読んでみました。
一般的に肥満が背景にありインスリン抵抗性・高血圧・脂質異常症・多嚢胞性卵巣症候群合併が多いことなどが知られていますが、女性に多く胎児期母親と新生児・乳児期の栄養状態に影響を受け脂肪肝や異所性脂肪、拡張期高血圧を高頻度に伴うことも特徴です。生活習慣の問題は大きく学校教育の重要性なども論じられますが社会経済的要因、遺伝(2型糖尿病の家族歴が濃いと糖尿病発症年令が低くなる)などと複雑に絡みあっていて難しい問題です。
意外な点として研究は少ないものの運動療法の効果が比較的乏しいことです。
特筆すべきは血糖コントロールが不良でインスリン治療を要するまでの期間が短いことです。
高齢(おおよそ40才以後)発症の2型糖尿病とは別個の疾患と考えた方がよいという意見もあるぐらいです。
発症後1年半で食事摂取後第1相インスリン分泌75%低下、第2相50%低下という報告、年間20~35%(高齢発症では7%)β細胞機能が低下したという報告(TODAY研究)、発症後2~5年で半数以上がインスリン治療を要したという報告などがあります。初診時の高HbA1c値、低インスリン分泌は独立した予後不良予測因子です。
介入研究が少なく固有のガイドラインもないため治療も高齢発症糖尿病に準じて行われています。代表的な介入研究は生活介入、メトホルミン、インスリン、SU剤、PPARγ(ロシグリタゾン)のもので、メトホルミンとロシグリタゾンの併用が効果持続性に優れていたこと、2~3年間メトホルミンと生活介入のみで血糖コントロール可能なものもいたこと、基礎インスリンが最初に使われることが多く3分の1は一旦インスリン中止可能になったこと、しかしそのうち半数は数カ月以内にインスリン再開、さらに強化療法に移行したことなどが報告されています。肥満減量手術も少数ながら報告され高齢発症糖尿病症例と同等の効果があったということです。今後DPP4阻害剤、GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害剤等は今後の介入研究待ちです。
合併症に関する長期の調査結果は最近報告され始めましたが、1型糖尿病、高齢発症2型糖尿病に比し細小血管合併症、大血管合併症とも進行が早く重症化しやすいことが指摘されています。

おおはしクリニック今後若年糖尿病の臨床研究を進めて行く際、ひとつの指標として脂肪組織インスリン抵抗性指数Adipose-IR(adipose insulin resistance index)が提案されました(2)。
Adipose-IRは正式にはインスリンクランプ法で計測する脂肪組織のインスリン抵抗性を簡易にもとめる方法で1980年代に既に論文化されていて、空腹時インスリン(μU/mL)×遊離脂肪酸(mmol/L)で計算します。成人では既にデータがありますが、今回10才以上20才未満の未成年を対象に検討が行われ以下の知見を得ました。
Adipose-IR9.3をカットオフ値にして耐糖能異常(IGT:前糖尿病+2型糖尿病)を予見できる
未成年IGTは成年IGTと比較して75~80% Adipose-IRが高い
肥満耐糖能異常の女性は男性より73% Adipose-IRが高い
以上より薬剤治療介入試験において効果の指標の一つに加えることなどが提案されています。

おおはしクリニック最後に「日本で最初の40歳以下2型糖尿病の全国調査」(3)を読みました。2011年から2013にかけて全国96の病院から20~40才の2型糖尿病患者782名が対象です。肥満、家族歴の関与は外国と同様の傾向で、網膜症、腎症には社会経済状況(SES)が関与していることがわかりました。夜食、睡眠不足を避け、定期受診とヘルスリテラシー(健康情報にアクセスし、理解し、使える能力)がコントロール良否定の鍵であることがわかりました。
患者ひとりひとりのヘルスリテラシーレベルに合わせた教育、患者の主観的健康感に注目することの大切さ、中断対策の重要性も指摘されています。
東京大学の近藤尚己先生が発刊に寄せて「疫学調査では最もデータをとりたい対象である社会弱者ほど調査に参加してくれないのでこの研究はその意味でも強みがある。」と述べておられますが納得しました。



参考文献
  1. Lascar Nら:青年と若年成人の2型糖尿病.Lancet Diabetes Endocrinol 6: 69-80, January 2018
  2. Kim JYら:若年者における正常体重から肥満、および正常耐糖能からIGTを経て2型糖尿病にかけての脂肪組織インスリン抵抗性.Diabetes Care 42: 265-272, February 2019
  3. 全日本民主医療機関連合会 医療部:放置されてきた若年2型糖尿病-2型糖尿病の未来予想図- 暮らし、仕事と40歳以下2型糖尿病についての研究(MIN-IREN T2DMU40 Study)報告書
2019年3月

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