今月の糖尿病ニュース

2018年12月の糖尿病ニュース

糖尿病医療経済

おおはしクリニック医療経済は大切な問題と思いながら(先月ニューステーマ糖尿病性神経障害と同様)学会でもついつい後回しになり勉強する機会に恵まれませんでしたが、Diabetologia誌に有名なSteno-2研究関連の費用分析最新版(1)が掲載されたのを契機に調べてみました。

糖尿病医療費については総説(2)によると各論文の概算にばらつきが大きい上、日本からの論文は少なく、絶対的な数字はないようですが糖尿病ネットワークによると以下の通りです。

日本の年間糖尿病医療費試算2006年(万円); 薬なし15(3割負担4.5)、内服32(同15)、インスリン44(同13.2)。
日本の月間(4週毎通院)糖尿病医療費試算2018年(円); 薬なし8900(同2670)、薬1種(SU)10240+3320(同4068)、薬1種(DPP4阻害剤)10240+7240(同5244)、2種18320(同5496)、インスリン4回打ち 23790+8240(同9609)、網膜症眼科診察一回5020(1560)。
厚生労働省は平成25年度国民糖尿病医療費1兆2076億円と発表していますが、ハーバード公衆衛生大学院他(Lancet2016 年4月9日)によると日本の糖尿病年間総医療費は8兆円(中国18.5兆、米国11.4兆、インド8兆)と試算しています。後者は糖尿病合併症にかかる費用を含んでいるためと思われます。さらに労働力減少など社会的な損失も含めると米国では2005年、さらに4兆6400億円かかったといわれています。

おおはしクリニックSteno-2研究は1993年から2001年まで平均55才の微量アルブミン尿陽性2型糖尿病患者160名を通常治療群と強化治療(血圧、脂質等含め多因子介入)群に分け、その後は両群とも強化治療を行い2014年まで経過観察したデンマークの研究で、7.9年の余命延長と最初の心血管イベント発症まで8.1年遅延が認められたことから、早期の徹底した治療の大切さ(メタボリックメモリー)を示した重要な研究です。今回医療費について事後分析が行われ当初費用がより多くかかるとされた強化治療群は21年に観察期間を延ばすと通常治療群と同等になった事がわかりました(1)。

糖尿病ネットワークの2013年アンケート調査によると、「医療費が高い」は糖尿病治療不満中1位77%から、通院・治療をやめたいと考えた理由中でも1位78%(時間をとれない/仕事を休めないは3位35%)から指摘があり想像以上(東邦大学弘世教授)に大きな問題だとわかりました。

おおはしクリニックしかし外来医療費の支払いに対する負担感は治療満足度が低い例に大きいので治療満足度を上げれば負担感が減るという報告(3)もあります。(断面研究のため逆に負担感が少ないと治療満足度が上がる可能性もあるそうです)。

クリニックの患者さんは30才台発症の人、70才過ぎての発症の人、合併症のない人、すでに重症合併症のある人様々で今回の報告(1)はどこまで当てはまるか不明ですが、抑えられる費用は出来るだけ抑えた上で予後改善に寄与することについてはしっかり説明して実行していきたいと改めて感じました。

参考文献
  1. Gæde Jら:2型糖尿病患者における強化対通常療法の医療費分析:Steno-2研究事後解析.Diabetologia 62: 147-155, January 2019
  2. Seuring Tら:2型糖尿病の経済的費用;地球的系統的レビュー. PharmacoEconomics 33: 811-831, 2015
  3. 田中 麻里ら:2型糖尿病患者における外来医療費の支払いに対する負担感. 糖尿病 61(6): 382-388, 2018
2018年12月

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