今月の糖尿病ニュース

2018年11月の糖尿病ニュース

糖尿病性神経障害と簡易神経伝導検査装置DPNCheckTM (DPNチェック)

おおはしクリニック今年の大阪糖尿病協会顧問医会学術講演会は11月15日大阪梅田で開催され、愛知医大教授中村二郎先生から「糖尿病性神経障害(以下DN)の診断と治療-現状と展望-」について大変有意義なお話を聴くことができました。

DNは世界的に統一された診断基準がありませんが、現在日本ではアキレス腱反射、振動覚、自覚症状をもとにした糖尿病性神経障害を考える会による簡易診断法(以下SD)が広く用いられています。SDによるDN有病率は日本糖尿病対策推進会議(2008年)では47%、JDCP研究では35.8%と報告されています。
今回SDの参考項目である神経伝導検査とCVRR検査について本年度日本(61JDS)およびアメリカ糖尿病学会(78ADA)で報告された自検データが紹介されました(神経障害のセッションに行く先生は少ないのではとジョークで話されました)。今回当クリニックにおいても簡易神経伝導検査装置DPNチェック導入予定のため、学会抄録および紹介された関連文献(1)(2)を読みました。

おおはしクリニック筋電計(EM)による神経伝導検査はDN診断・評価において信頼性が高いが熟練した検査技師と高価な検査器機を要する。POCT(ポイント オブ ケア テスティング=臨床現場即時検査)器機であるDPNチェックは腓腹神経の神経伝導速度(CV)と活動電位振幅(Amp)を特殊な技術不要、5分で検査できるのでEMと比較した。EMとの相関係数RはCV0.7663、Amp0.6178だった。またEM上腓腹神経Amp5μVおよび脛骨神経Amp5mVを基準に重症度を0、1、2の3段階に分けた場合、 DPNチェック データから変換式を作ると重症度=2.235+0.009×年令-0.015×CV-0.041Amp、R=0.645だった。(78ADA/563-P)

JDCP研究登録者のうちDN評価可能なもの4536名を対象。DN有病率はSD条件項目だけで診断すると36.2%、安静時CVRR検査<2%だけで30.7%、両者いずれかを満たすものと定義すると53.4%、両者とも満たすものとすると25.4%だった。(61JDS/I-9-5)
愛知医大入院患者94名を対象にSD条件項目、EMおよびCVRR(<2%)によるSD参考項目検査を行った。いずれか1検査に異常があればDNと判定すると有病率は85.1%、条件項目のみでは33.0%、条件項目またはCVRR(<2%)では59.6%だった。以上より条件項目にCVRRを加えることでDNを高率に診断できる可能性が示唆された。(61JDS/I-9-18)

DN重症度評価に神経伝導検査とCVRRを併用すると網膜症、腎症、動脈硬化と関連が認められた。(78ADA/565-P)(61JDS/I-P-190) おおはしクリニックにおいてもCVRR検査の成績は2015年7月この糖尿病ニュースで報告しました。(タイトル「第10回北河内糖尿病療養指導セミナー」、安静時CVRR<2.2%を異常とすると糖尿病患者120名中53%が該当、CVRR検査は網膜症重症度と相関)

おおはしクリニックDN重症度評価は神経伝導検査のみで行う方法があり、神経障害なし(NCS0度)から軽度・中等度・重度・廃絶障害(NCSI・II・III・IV度)まで5段階で病理所見とも対比されています(1)。最近は馬場分類BDC(BDC0~4)と一般に呼ばれ、大血管障害や突然死発生率とも関連する(2)ことが報告されました。重症度を評価すれば壊疽・転倒等のリスクのみならず生命予後も占うことができることになり患者さんの検査説明にも厚みが増しそうです。
馬場分類は脛骨神経振幅・伝導速度を用いる為DPNチェックのみでは対応不可ですが、腓腹神経振幅は測定でき5μV未満であればBDC2度(中等度)以上の障害があると判定可能なため日常診療にも役立つことが期待されます。

参考文献
  1. 馬場 正之:神経伝導検査による糖尿病神経障害の重症度分類. 臨牀神経生理学 41(3): 143-150, 2013
  2. 馬場 正之ら:神経伝導検査による2型糖尿病神経障害の重症度分類:重症度別にみた足病変、大血管障害および突然死の発生に関する5年間の前向き研究. 臨牀神経生理学 46(2): 71-77, 2018
2018年11月

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