今月の糖尿病ニュース

2018年9月の糖尿病ニュース

セラミドCeramideと肝

セラミドとは何か?Yahooで検索すると肌の保湿効果に関するもの(化粧品のコマーシャル)が殆どで、何を食べるとセラミドが増えるかなどの記事も見つかりました。
次に科学論文検索サイトPubMedで調べると抗腫瘍効果に関するものが多く、作用機序としてアポトーシス促進などが挙げられています(1)。

しかし一方で血液中・筋肉中のセラミドはインスリン抵抗性と相関する(2)(3)ことが報告されており、最近では大規模かつ長期のコホート研究でも証明されています(4)(5)。またセラミドの量のみならず種類(C24:0/C16:0比)によっても心血管疾患イベント・死亡率に差があることが報告されました(6)。

9月21日、奈良医大消化器・内分泌代謝内科、吉治仁志先生から脂肪肝・NASH(非アルコール脂肪肝炎)の講演を聴く機会がありました。糖尿病の死因トップは肝疾患であること、腸内細菌の関与など紹介されました。食事療法についてはまだ検討の余地はあるものの脂質に注意すべきとのことでした。
肝セラミドは肝内脂肪量、肥満度と独立してインスリン抵抗性のリスクであること(7)が報告されていますが、今回非糖尿病過体重者に対して3種(1000kcalの高飽和脂肪食SAT、高不飽和脂肪食UNSATまたは高炭水化物食CARB)の追加栄養負荷(負荷前2000kcal/日とあわせ3000kcal/日に)を与え血漿セラミド測定・分析、腸内細菌分析、脂肪組織トランスクリプトーム(細胞中に存在する全てのmRNAあるいは一次転写産物)解析、基礎状態およびグルコースクランプ下脂肪分解測定(重水素トレーサー使用)、de novo脂肪合成(DNL)測定(重水素トレーサー使用)、プロトンMRS法による肝内脂肪含有量(IHTG)測定が行われました(8)。

結果です。体重は各群で平均1.2kg増え群間差はありませんでした。個人差はありましたがいずれのデータも体重増加とは無関係でした。IHTGはSATで55%、UNSATで15%、CARBで33%増えました。SATでは脂肪分解が増え、CARBではDNLが増えました。
IHTGのソースは脂肪分解59% DNL26%という既報に基づいて考えるとSATは脂肪分解が増えることによりIHTGが増えたことになります。肝内TGとVLDL-TGのFFA組成はほぼ同じでSATはSFA(飽和脂肪酸)、UNSATはPUFA(多価不飽和脂肪酸)、CARBはDNL由来SFAが増えていました。PUFAは脂肪酸受容体GPR120を介して脂肪分解を抑制するのでUNSATで脂肪分解は減った可能性があります。

SATでセラマイドは49%増加しましたが、前駆体も増加していたのでde novo経路で増加したと考えられます。UNSAT、CARBでセラマイドは増加していませんでした。
脂肪組織トランスクリプトームはSATで炎症系(CARBでは糖代謝系、UNSATでは酸化的リン酸化系)が増加、エンドトキシンはSATのみで増加、グラム陰性プロテオバクテリアがSATで3.6倍に増加していたこととあわせて考えると炎症が脂肪分解を促進しセラミド合成を増やしたと考えられます。
SATではインスリン抵抗性が23%増加していました。
SATではHDL、LDL、GPT、GOTも増加していました。

まとめると飽和脂肪の多い食事は腸内細菌叢の変化などからエンドトキシン血症など炎症を惹起し肝内脂肪、セラミドを増やしインスリン抵抗性から2型糖尿病の発症リスクになるということです。脂肪肝の病態は複雑ですがセラミド・飽和脂肪からの切り口、脂肪の流れについて興味深く読みました。

参考;セラミドの基本事項は以下の通りです。 様々な細胞の細胞膜にある脂質の一種である スフィンゴイド塩基(スフィンゴシン)と脂肪酸がアミド結合したスフィンゴ脂質である de novo経路 スフィンゴミエリナーゼ経路 サルベージ経路から生成される セラミドはスフィンゴシン、グルコシルセラミド、スフィンゴシン1-リン酸、セラミド1-リン酸、スフィンゴミエリンに代謝される

9月2日第37回日本臨牀運動療法学会学術集会に参加しました。約10分間の演題発表が終わる度に皆起立するので始めは戸惑いましたが、最近よく言われる「長時間坐位のままでいない」ことを学会員が率先して実行しようということでしょうか。

参考文献
  1. Li Fら:セラミド:癌組み合わせ治療における治療的可能性. Current Drug Metabolism 17: 37-51, 2016
  2. Haus JM, DeFronzo RAら:血中セラミドは肥満2型糖尿病患者で増加しインスリン抵抗性と比例する. Diabetes 58: 337-343, February 2009
  3. Adams JM 2nd, DeFronzo RA, Mandarino LJら:肥満インスリン抵抗性ヒト筋肉においてセラミド含量は増加している. Diabetes 53: 25-31, January 2004
  4. Holland WL ら:強い心臓、少ないセラミド. Diabetes 67: 1457-1460, August 2018
  5. Lemaitre RN ら:循環血中スフィンゴ脂質、インスリン、HOMA-IRとHOMA-β: The Strong Heart Family Study. Diabetes 67: 1663-1672, August 2018
  6. Peterson LR ら:セラミド再構築と心血管イベントおよび死亡リスク. J Am Heart Assoc 7: e007931, 2018
  7. Luukkone PKら:肝セラマイドは非アルコール性脂肪性肝疾患患者において脂肪肝とインスリン抵抗性を分離する. J Hepatol 64: 1167-1175, 2016
  8. Luukkone PK, Yki-Jarvinen Hら:飽和脂肪は不飽和脂肪または単純糖質よりヒト肝に対し代謝的に有害である. Diabetes Care 41: 1732-1739, August 2018
2018年9月

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