今月の糖尿病ニュース

2018年8月の糖尿病ニュース

性腺機能低下症と糖尿病

アメリカ糖尿病学会が毎年発表する「Standards of Medical Care in Diabetes」は日本の学会・講演会でもよく引用され、最近ではSGLT2阻害剤の位置付けなどでよくお目にかかります。
その2018年版ですが「男性における低テストステロン」が改訂されました。2017年版では記述は6行のみ、テストステロン測定、補充療法については言及していませんでしたが、2018年版では初めてテストステロン測定が症候のある人に推奨されました。記述も約4倍になりました(1)。
また今年オーランドで開かれた年次学術会議シンポジウムにおいてもテストステロン補充療法による糖尿病改善の成績(演者Farid Saad)が報告されました。

DiabetesCare7月号に性腺機能低下症について総説があったので読んでみました。

① 2型糖尿病、肥満、メタボリック症候群を一括してdiabesity(糖尿病・肥満)とここでは呼ぶ。血中遊離テストステロン濃度が低いにも関わらずゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)が増加しないことを低ゴナドトロピン性性腺機能低下症(HH)と呼ぶ。

② 性腺機能評価は遊離テストステロンで行う。遊離テストステロン測定は平衡透析法による分離と質量分析法にて行うのがゴールドスタンダードである。RIA法は信頼性が低い。

③ 2型糖尿病に関してHHは2004年に25~40%の頻度と報告された。 ただし1型糖尿病ではHHは稀なためHHはインスリン抵抗性との関係が推測される。ロシグリタゾンによるテストステロン軽度上昇の報告がある。肥満とメタボリック症候群に関して最近の調査ではHHは36%の頻度である。別の調査でHHは肥満者で40%、糖尿病合併肥満者で50%だったことから、HHに対して糖尿病の寄与は肥満に比し小さいと考えられる。いくつかの研究によると遊離テストステロンとHOMA-IR、中性脂肪、炎症介在物質、皮下脂肪細胞サイズはBMIとは独立して逆相関関係にある。

④ 総または遊離エストラジオールはHH男性で低い。エストロゲン拮抗薬クロミフェン、アロマターゼ阻害剤(エストラジオール低下作用)はテストステロン増加作用があることから、HHにエストラジオール低下が関与しないことは明らかである。睡眠時無呼吸症候群もHHには関与しない。脳内のインスリンシグナル減少は肥満、低ゴナドトロピンに関与する。インスリン作用部位は同定されていない。レプチン作用減少(レプチン抵抗性)関与の可能性もある。減量や運動によりテストステロンは増加するがインスリン、レプチン感受性増加を介する可能性がある。Kisspeptinは視床下部に存在する神経ペプチドであるがゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)に作用してゴナドトロピン、テストステロン増加作用がある。Kisspeptin ニューロンにはインスリン・レプチン受容体がある。TNFαやインターロイキン-1βは視床下部のGnRH抑制作用がある。これら炎症介在物質は肥満で増加することが知られている。

⑤ 低テストステロンと肥満は両方向性である。前立腺癌等治療薬リュープリンは下垂体GnRH受容体作動薬だが通常のGnRH受容体感受性を弱めHHを招くが脂肪量を増加させ糖尿病発症リスクを高める。

⑥ diabesity男性HHの臨牀所見とテストステロン補充療法(TRT)効果;性欲は改善するが勃起力への効果は不明。非脂肪体重は増加。脂肪は減少するがテストステロンからエストラジオールへのアロマターゼ活性を阻害するとこの効果はなくなる。インスリン感受性は改善するが非肥満者では不明。インスリン感受性改善効果はテストステロンの直接作用か脂肪量減少による間接作用か不明。HbA1cへの効果は一致した見解なし。HHでは貧血を合併するがヘプシディンの増加、フェロポーチン・トランスフェリンの減少を介する。TRTはエリスロポエチンを増加させ貯蔵鉄を動員することで貧血を改善する。HHでは予想に反してアンドロゲン・エストロゲン受容体、アロマターゼが減少しているがTRTにて回復する。エストラジオール血中濃度と骨密度の相関はテストステロンより強い。TRTの骨への効果はデータがない。TRTのLDL低下作用の報告があるがHDLとTGはほとんど変化しない。疫学研究では心血管疾患はdiabesity男性HHで多いとされるがTRTの無作為化比較対照試験はなく、他の試験結果も一定しない。PSAは性腺機能低下症、肥満、2型糖尿病では低い。しかし肥満者でPSAが低いのはテストステロン低値とは無関係である。また前立腺癌は肥満者、糖尿病患者で少ないことがわかっている。しかし肥満者では前立腺癌発見が遅れ勝ちになる。TRTはPSAを軽度増加させるかもしれないが前立腺癌を増やすというデータはない。肥満者では精子産生は低下している。TRTは精子産生を低下させるので不妊治療には使用できない。

⑦ 臨牀家への提言(意見);diabesity男性は症候がなくてもすべて朝食前遊離テストステロンを測るべきである。なぜなら症状はテストステロン補充後にはじめて気付くこともあるからである。正常下限の場合再検し正常ならTRTは無効である。遊離テストステロンが低い場合LHを測定する。テストステロン投与中は遊離テストステロン測定して量調節する。ヘモグロビン、前立腺はEndocrine Societyのガイドライン(JCEM103:1715-1744, 2018)に沿ってモニターする。

参考文献
  1. Aleppo Gら:成人糖尿病治療におけるDexcom G5 CGMシステム上血糖トレンド矢印対応への実用的アプローチ. Journal of the Endocrine Society 1: 1445-1460, December 2017
  2. 2) Dhindsa Sら: 糖尿病・肥満(diabesity)男性における低ゴナドトロピン性性腺機能低下症. Diabetes Care 41: 1516-1525, July 2018
2018年8月

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