今月の糖尿病ニュース

2018年6月の糖尿病ニュース

Era of Precision Medicine :第78回米国糖尿病学会参加報告

今年の米国糖尿病学会は6月22日から26日までフロリダ州オーランドで開催されました。Precision Medicine(精密医療)というタイトルをよく目にしましたが、2015年にオバマ大統領が一般教書演説で引用したこともありアメリカでは一般的になりつつあるそうです(ウイキペディアより)。因みに個別化医療とは別の概念であり、診断には手間がかかるものの治療が効率的かつ有効になり総医療費の節約に繋がるらしいです。
その中で最も印象に残ったのは最近始まったNIDDK(米国国立糖尿病消化器・腎疾患研究所)の Kidney(腎) Precision Medicine プロジェクトです。血液検査のみならず最先端の画像診断から生検まで駆使して最適な薬剤を選択するというやや現実離れしたような話ですが今後が注目されます。
その流れか妊娠糖尿病の不均質性も問題になっているようです。シンポジウムでは肥満妊娠と対比しながら病態生理に基づいて血糖コントロールするべきだと述べられました。(メトホルミンのみならずSU剤の治療成績が提示され少し驚きました。)DiabetesCare 最新号に特集が組まれています。

RISE(Restoring Insulin SEcretion)研究は若者(10~19才)境界型~2型糖尿病の病態生理を高血糖クランプ法等で調べ、インスリンまたはメトホルミン治療効果も同法でみるというNIDDKの大変労力のかかった仕事ですが一部結果が発表になりました。当クリニックでも薬に反応しない20~30才代の患者さんにしばしば出会い、治療に難渋することがあるので大変興味があるテーマでした。 結果、個人差はあるものの一部の症例ではインスリン抵抗性が非常に強くインスリン分泌が代償性に亢進するも、境界型でさえ(2型糖尿病は言うまでなく)1年間のインスリンまたはメトホルミン治療にも関わらず(膵保護を行っても)インスリン分泌能低下進行を阻止できないことがわかりました。20才以上の(BMIなど)同様の患者についても調べられていますが治療(肥満手術を含む)介入の結果は今後発表される予定です。「非若者」の2型糖尿病は境界型に介入すると予後が改善することが今学会でも発表されましたが「若者」は何が違うのか今後他の薬剤介入を含めて研究が進められることでしょう。なおこの研究も発表と同時にDiabetesCare誌に発表されました。

DeFronzo先生のグループは前糖尿病患者のインスリン分泌能を高血糖クランプ法で調べた成績など多数の演題を発表されていました。いつもお忙しそうですが(いつも人に囲まれています)今回はポスター会場で比較的ゆったりされていて一緒に記念撮影ができました。

SGLT2/1阻害剤の1型糖尿病への投与臨床試験セッションは最終日の最後にも関わらず大会場が7~8割(例年3~4割でしょうか)の入りと盛況でした。HbA1cのみならずCGMでTime in Range(TIR)を増やし低血糖を減らすことがわかりましたがケトアシドーシスの問題、2型と同様心腎への効果が期待されるのか熱のこもった議論が行われました。TIRは多数の発表に登場し今後大事な指標になると思われました
日々の診療に直結する情報としてはCGMの血糖トレンドを示す矢印への対応です。 詳細は後日としますがEndocrine Society(米国内分泌学会)が2017年12月に学会誌上ガイドライン(試案)を出しています。

また1型糖尿病患者さんが激しい運動を午前中休憩も交えて25分した後15分後に血糖測定し(激しい運動をすると高血糖になります)、補正インスリン量について検討したところ平常時補正とほぼ同様(100~150%)の追加注射を行えば翌朝まで低血糖を増やすことなく、かつTIRを改善したとデータが示されました(732-P:FIT study)。

2018年6月

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