2018年3月の糖尿病ニュース
乳酸アシドーシス
乳酸アシドーシスとは種々の原因によって血中に乳酸が増加する結果、著しい代謝性アシドーシスを起こして昏睡に陥る予後不良の疾患です。乳酸とブドウ糖は炭水化物代謝において互いに前駆物質になる関係で、高乳酸血症は組織の酸素不足や解糖系の亢進などにより生じます。
乳酸アシドーシスのリスクファクターとしては腎機能障害、脱水、シックデー、過度のアルコール摂取、心血管・肺機能障害、手術前後、肝機能障害、高齢が挙げられています(1)。
乳酸アシドーシスの診断基準は血中乳酸値45mg/dl (5mmol/L)超、血液pH7.35未満、症状は意識障害、食欲不振、嘔気嘔吐、腹痛から過呼吸、ショック状態へ、さらに死に至ることもあります。
さて心臓手術後、敗血症などICUで管理される患者の血糖コントロール目標は140～180mg/dl、それ以下では低血糖のためかむしろ予後不良といわれています(2)。高血糖領域については220以上については不良なものの180～220については有害性が確定的でないようです。
以前より麻酔科領域などでは心臓手術時等において高乳酸血症は高血糖と共存し、高血糖より優れた予後規定因子であると言われています(3)。機序は不明ですが組織循環低下による酸素不足のもと、カテコラミン増加、炎症反応が加わり嫌気性解糖が促進し血中乳酸が増加すると考えられています(3)。
従って厳格な血糖コントロールは（間接的に？）心臓手術後の予後を改善すると報告されていますが、不思議なことに糖尿病患者に関してはその効果が弱いと言われていました(3)。
もちろん糖尿病患者でも高乳酸血症は予後不良因子ですから、糖尿病では高血糖時乳酸値が上がらないのではという仮説のもと、今回米国マウントサイナイ病院で2011年～2015年に心臓手術を受けた非糖尿病患者NODM2584名（平均A1c5.7％）、糖尿病患者1510名：経口剤治療中DMOM559名（同7.2％）インスリン治療中DMIT424名（同8.0％）その他DMNT527名（同6.1％）の血糖と血中乳酸データが術前から術後48時間まで調べられその後の経過（呼吸不全、感染、死亡、入院日数）と対比されました(3)。
結果です。180以上を高血糖と定義するとNODMで26％、DMNT46.5％、DMOM62.8％、DMIT73.8％に見られました。血中乳酸の最高値はNODM＋高血糖5.8mmol/L vs NODM－高血糖3.3、同DMNT4.8vs3.4、DMOM3.8vs2.9、DMIT3.3vs2.7でした。
増加した乳酸レベルは死亡率増加と関連があり、糖尿病患者では血糖上昇とともに乳酸レベルを下げる減少が認められました。つまりストレス性高乳酸血症は糖尿病患者では著明に抑制されました。機序は不明ですがインスリン作用不全により解糖減少、糖新生増加が想定されています。
乳酸関連で今月のDiabetes Care誌にもう一題、腎機能低下時のメトホルミン投与と乳酸について新たな報告がありました(4)。
メトホルミンは乳酸から糖新生を阻害するため、腎機能低下によりメトホルミンの血中濃度が上がると乳酸アシドーシスを引き起こすおそれから2016年ようやくCKDステージ３A、３Bに対する投与が禁忌から外された段階ですが、未だ前向き薬力学・薬物動態データがありませんでした。
今回の研究ではCKDステージ３A症例でメトホルミン1500mg/日、ステージ３Bでメトホルミン1000mg/日、ステージ４（GFR15～29）で500mg/日ならメトホルミン血中濃度はFDAの定める上限5mg/L、乳酸も5.0mmol/L以上には上がりませんでした。
血中メトホルミン濃度と乳酸濃度に関連はありませんでした。
しかしステージ4に500ｍｇを3ヶ月以上投与すると乳酸が要注意濃度（2.5mmol/L）以上になった例もあり、乳酸をあげる他の要因（論文中では「虚弱な患者」）があればステージ3以下でも慎重に診ていく必要性に変わりないと思われます。
参考文献
- ビグアナイド薬の適正使用に関する委員会：メトホルミンの適正使用に関するRecommendation
- アメリカ糖尿病学会：病院内の糖尿病ケア：糖尿病医療の基準. Diabetes Care 41S1: S144-S151, January 2018
- Greco Gら：糖尿病は心臓手術下ストレス性高乳酸血症軽減に関係する. Diabetes Care 41: 469-477, March 2018
- Lalau JDら：CKDステージ3A、3Bまたは4合併2型糖尿病患者におけるメトホルミン治療. Diabetes Care 41: 547-553, March 2018
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