今月の糖尿病ニュース

2018年2月の糖尿病ニュース

ステロイド糖尿病

おおはしクリニックステロイド(グルココルチコイド)剤は膠原病、腎炎、気管支喘息などの患者さんに大切な薬として処方されますが既存の糖尿病に影響を与え、時に新規に糖尿病を発症させます。
新規血糖降下剤が続々登場し、インスリン以外の薬剤もステロイド誘発性高血糖コントロールに多く使用されるようになった今、現状を調べるとともに最新文献(1)も読んでみました。

リスクファクター;ステロイド投与量と投与期間、高齢者、糖尿病の家族歴、肥満者(6) 病態生理;グルココルチコイドによりPEPCK遺伝子発現が肝では促進、脂肪組織では抑制される。結果血中遊離脂肪酸が増加し、糖新生が増加する。遊離脂肪酸増加はインスリン抵抗性をもたらす(2)。
筋において糖取り込み抑制、グリコーゲン合成抑制、蛋白合成抑制、蛋白分解促進(2)。
小胞体恒常性障害からのβ細胞死(2)、分泌過程におけるカルシウムの効果障害、PKAを介するインスリン放出減少(7)によるインスリン分泌抑制。
血糖日内パターン;軽症糖尿病典型例では昼食後がもっとも高血糖となり、次いで夕食前夕食後も上がる。一方早朝血糖値は低い(5)。

薬剤治療;臨床(比較)試験データが少なく、ステロイド投与スケジュール、ステロイド投与前耐糖能次第で、すべての経口血糖降下剤は使用可能(4)。例えば軽症かつプレドニン等朝投与の場合インスリン抵抗性解除剤、食後血糖降下剤(グリニド、αグルコシダーゼ阻害剤)が優先される(5)。SU剤は空腹時血糖軽~中等度上昇例などにインスリン抵抗性改善剤と併用すれば特に禁忌ではない(5)。また中間型グルココルチコイド1日2~3回投与例、デキサメサゾン投与例、関節内ステロイド投与例ではSU剤の24時間血糖降下作用が有用になる(4)。DPP4阻害剤は膵島機能を改善するもののメタボリック症候群男性の耐糖能悪化防止に無効(7)。一方メトホルミンは非糖尿病者において耐糖能悪化予防効果があった(3)が、ステロイド治療を要する患者は低酸素、腎不全のリスクを持つ人も多く注意を要する(4)。ピオグリタゾン、メトホルミンは効果発現までに時間がかかることが欠点である(4)。インスリンは軽症例にはNPH、速効または超速効製剤、空腹時血糖高度上昇例には持効型製剤併用される(5)。
なお新規のステロイド糖尿病にはインスリン以外保険適応は「基本的にとれていません(6)」。

おおはしクリニック今回新たに報告されたのは以下の通りです(1)。①グルココルチコイド(11-DHC、コルチゾン、コルチコステロン、コルチゾール)は生理的範囲ではβ細胞内に流入するCaイオンを確かに減少させるものの、代償的に細胞内cAMPを増加させインスリン分泌を保つ。②Hsd11b1が①の代償機構において鍵を握る酵素であるが何らかの原因で失活してインスリン分泌不全になる可能性。③失活の原因一つに高遊離脂肪酸血症による脂肪毒性が挙げられる。④Hsd11b1作用は内皮細胞またはその他細胞からのパラクリン作用が想定されるのでβ細胞単独実験では検出されない可能性。

まだまだ不明の点も多いですが、SU剤、メトホルミン、DPP4阻害剤等の位置付けが確認され診療に役立たせたいと思います。

参考文献
  1. Fine NHFら:グルココルチコイドはインスリン分泌を保つためβ細胞シグナリングを再プログラムする. Diabetes 67: 278-290, February 2018
  2. Hwang JLら:ステロイド誘発性糖尿病:理解と治療への臨床的分子的アプローチ. Diabetes Metab Res Rev 30: 96-102, February 2014
  3. Seelig Eら:メトホルミンは全身グルココルチコイド治療時、代謝副作用を防ぐ. Eur J Endocrinol 176 : 349-358, 2017
  4. Park MKら:グルココルチコイド誘発性糖尿病:重要だが見逃される問題. Eur J Endocrinol 176 : 349-358, 2017
  5. 飯降直男 辻井悟:見逃してはいけないステロイドの副作用と対処法. 糖尿病.月刊薬事 58: 2299-2305, 2016.7 増刊号
  6. 日本内分泌学会ホームページ:ステロイド糖尿病
  7. Genugten REら:DPP4阻害剤はメタボリック症候群男性に対してグルココルチコイドによる糖尿病誘発作用を防ぐか?  無作為対照試験. Eur J Endocrinol 170 : 429-439, 2014
2018年2月

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