今月の糖尿病ニュース

2018年1月の糖尿病ニュース

経口糖負荷試験(OGTT)、特に30・60・90分値について

おおはしクリニック新年明けましておめでとうございます。このニュースシリーズも9年目を迎え今年は100回を越す予定ですが、当クリニックの臨床に繋げる形で続けていく所存ですので何卒よろしくお願い致します。
OGTTは主として糖尿病の疑いのある人に行われ、空腹時血糖、負荷後120分血糖により糖尿病型か否か判定します。(ほかにHOMA-IR:インスリン抵抗性指標、インスリン分泌指数、Matsuda Indexなどが計算できます。)
患者さんには正常型か糖尿病型か境界型かをお伝えしますが、正常型が必ずしも安全でなく境界型でも必ず糖尿病になるわけではないことが報告されており、日常臨床ではもう一つ踏み込んだ判定法があればと思うこともしばしばです。そこで判定に用いられない30・60・90分血糖値を用い正常または境界型から糖尿病になるリスク、他動脈硬化性疾患リスクなどがより詳細に推定可能になればとても便利なため今でも多くの論文が出ています。

① 60分値に関して

日本糖尿病学会偏、糖尿病診療ガイドライン2016年や糖尿病治療ガイド2016-2017には、「正常型から糖尿病型への悪化率は年1%未満だが60分値が高い場合は進展率が高い」と記載があり60分値180mg/dl以上を参考指標として記載しています。(過去にOGTT60分値正常は160mg/dl未満という正式な基準がありましたが現在は無くなり、また根拠は調べた限り不詳でした。)
Webで調べるとMedical TribuneインターネットシリーズDoctor’s Eyeに北里研究所の山田悟先生が2016年5月27日付けで「脚光浴びるOGTT1時間(=60分)値異常」という記事を書いておられました。60分値155mg/dl以上を異常とした場合糖尿病の発症のみならず、死亡・動脈硬化症リスクも高まること、60分値異常はIFGよりインスリン分泌・抵抗性、心血管性リスクが悪く糖尿病発症を予測すること、60分値異常はIGTより弱いながらIGTと独立したマーカーであることなど論文をもとに解説され、60分値の基準値は180と155とどちらが適当かにも言及しています。
最近では今月号Diabetes Care誌に60分値の重要性につき新たに論文が発表されました(1)。(120分値で判定される)IGTよりも2型糖尿病発症・合併症・死亡予知に優れている可能性を示唆するもので今後さらに追試が必要と述べています。

② 30分、90分値を含む血糖変動パターンについて;

おおはしクリニックOGTTの血糖変動パターン(一相性か二相性か、30~120分の間に0分値以下に下がるか否か)と2型糖尿病へのリスクについては過去に報告(2)がありますが、1型糖尿病のリスクにつき同様の検討を行った成績がDiabetologia 誌に報告されました(3)。概して二相性、0分値より負荷後低値を示す症例にリスクが少ないようです。

因みに当クリニックOGTT糖尿病型以外42症例を調べたところ単独IGT(0分値110未満かつ120分値140以上200未満)は11例、単独IFG(0分値110~125かつ120分値140未満)1例、IFGかつIGT(0分値110~125かつ120分値140以上かつ200未満)2例でした。
IGTおよびIFGIGT例13例のうち60分値が120分値より高い(上記一相性に相当)のは11例、低い(上記二相性に相当)のは2例でした。
NGT(正常型)28例中60分値155以上は7例うち180以上5例でした。NGT中30~60分間に0分値以下に下がった例はなく、120分になってようやく下がった例が5例あるのみでした。
まとめるとIGT13名中2名が比較的低リスク、NGT28名中7例が比較的高リスクかと考えられました。
論文(2)被験者は北欧人で糖尿病家族歴のある人が多数、(3)は1型糖尿病患者親類かつ自己抗体陽性者ですが、当クリニック症例に少ない二相性例、30~60分に0分値以下に下がる例が多いことに気付きました。

OGTTは古くからある検査ですがいまだに研究が盛んにおこなわれていることに大変興味を持ちました。

参考文献
  1. Pareek Mら:予知能の高い1時間経口糖負荷試験:前向き住民コホート研究. Diabetes Care 41: 171-177, January 2018
  2. Abdul-Ghani MAら:OGTT時血糖変動曲線の形が将来の2型糖尿病リスクを予知する. Diabetes Metab Res Rev 26: 280-286, 2010
  3. Ismail HMら 1型糖尿病TrialNet 研究グループ:OGTT時血糖変動曲線の形が将来の1型糖尿病リスクを予知する. Diabetologia 61: 84-92, January 2018
2018年1月

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