今月の糖尿病ニュース

2017年11月の糖尿病ニュース

高血糖とフレイル、認知機能低下

おおはしクリニックフレイルとは「高齢による衰弱」という意味で、健康な状態と介護が必要な状態との中間の状態です。厚生労働省平成26年国民生活基礎調査によると、介護が必要になる主な原因として脳卒中18.5%、認知症15.8%に次いでフレイルは13.4%と第3位を占めています。
(認知症に至らぬ軽度)認知機能低下は多面的なフレイルの一要素です。

HbA1c低値と高値ではいずれもフレイルのリスクが増大(荒木厚、2017日本糖尿病学会ランチョンセミナー抄録より)すると報告されていますが、糖尿病と認知機能低下については荒木によると以下のことがわかっています(1)。

糖尿病患者は認知機能低下、認知症をきたしやすい。
認知機能障害の中でも注意力、実行機能、情報処理能力、視空間認知、言語流暢性、学習記憶力などの障害がおこりやすい。
糖尿病がない人に比べてアルツハイマー病は1.5倍、血管性認知症は2.5倍、認知症全体は1.5倍多い。
HbA1c7.0%以上でMCI(軽度認知機能低下)は3.7倍になる。

また有名な久山町研究では以下のことがわかっています(2)。
耐糖能異常または糖尿病は、脳血管性認知症のみならずアルツハイマー病(相対危険3.1)の危険因子である。
耐糖能異常とその背景にある高インスリン血症およびインスリン抵抗性は、アルツハイマー病の病理学的基盤をなす老人斑の形成に密接に関連している。
耐糖能異常または糖尿病における認知症発症の機序は必ずしも明らかでない。

おおはしクリニック以上より糖尿病は認知機能障害の原因であることははっきりしていますが、糖尿病の
主徴である高血糖が、随伴するインスリン抵抗性(肥満など)、心血管疾患・うつ病などの既往、高血圧合併、細小血管障害(網膜症・腎症・神経障害など)合併有無などに比しどの程度強く影響するのかは依然はっきりしません。
今月のDiabetes Care誌には、高血糖そのものの認知機能低下への影響について研究結果が発表されました(3)。2型糖尿病のコホート研究であるマーストリヒト研究より、登録時点認知機能検査結果を記憶、処理速度、遂行機能・注意力に分けて、血糖、インスリン抵抗性、血圧関連各因子の影響を調べました。血糖関連は糖負荷試験、HbA1c、AGE、耐糖能、糖尿病罹患年数、インスリン抵抗性関連はHOMA-IR、ウエストヒップ比、BMI、血圧関連は収縮期・拡張期血圧、24時間血圧、降圧剤内服歴が調べられました。その他教育歴、喫煙歴、心血管疾患・うつ病歴、細小血管障害なども調べられました。糖尿病の人666人のHbA1cは6.8±1.0%、平均罹患年数は6年、72.1%が経口血糖降下剤、21.5%がインスリン治療でした。
結果、処理速度、遂行機能・注意力が高血糖関連項目とくにHbA1cの影響をうけること、それは糖尿病のみで前糖尿病には当てはまらないこと、降圧剤の内服歴があると高血糖はより大きな影響をもつことがわかりました。

この分野では他にMRIを使ったARIC研究、1型のDCCT/EDIC研究などが有名ですが、わかりやすい総説(4)(5)もありました。アルツハイマー型、脳血管型認知症に比し高血糖による認知機能低下は可逆性の可能性もあります。先日お金の計算ができなかった患者さんが数か月後できるになった例を経験し、血糖コントロール効果なのか考える上でヒントになる論文でした。


写真はastros.comより

参考文献
  1. 荒木 厚:高齢者の糖尿病. 1.糖尿病患者の老年症候群. 糖尿病57(9): 676-678, 2014
  2. 向井ら:糖尿病の疫学:久山町研究. 福岡医誌102: 175-184, 2011
  3. Geijselaers Sら:糖尿病に関連した認知機能差異における高血糖、インスリン抵抗性、高血圧の役割-マーストリヒト研究. Diabetes Care 40: 1537-1547, November 2017
  4. Sato Nら:糖尿病における脳の変化と認知症臨床症状: Aβ/tau依存、非依存機構. Frontier in Endocrinology 5: Article143 1-8, September 2014
  5. Kawamura Tら:糖尿病患者の認知機能障害:糖尿病コントロールは認知機能低下を予防できるか? J Diabetes Invest 3: 413-423, October 2012
2017年11月

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