今月の糖尿病ニュース

2017年8月の糖尿病ニュース

肥満逆説(Obesity Paradox)

おおはしクリニック
「先生、なかなか体重減らんわ」「薬は飲みたくないので食事減らします」という声の一方、「少し太っているぐらいの方が長生きするんでしょう?」と尋ねる患者さんもいて、適正な肥満指数BMIは背景因子によって異なるのでしょうか?(1)

肥満逆説(Obesity Paradox)とは心不全、末期腎不全、高血圧、そして2型糖尿病患者において肥満者が正常体重者より死亡率が低いという報告が相次いだことから、通常の概念(肥満は悪)とは逆という意味で名付けられた俗称です(2)。

おおはしクリニック日本人のデータとしては国立がん研究センターによる日本のコホート研究のプール解析から「日本人のBMIと死亡リスク」がありました。年令、地域、喫煙、飲酒、高血圧・糖尿病診断歴、余暇のスポーツ運動による影響を除外してあります。腹囲に関して検討はされていません。
結果は概ね逆J型つまりBMIが低い方のリスク上昇が顕著(欧米ではJ型でBMI高い方で顕著)でしたが死因別にすると心疾患、脳血管疾患ではUまたはJ型になりました。死亡率の最も低いBMIは21~27でした。
体重減少または増加の観点からは多目的コホート研究JPHC studyのひとつ「中年期における体重変化と死亡率との関連について」がありました。結果中年期の5年間に体重が5kg以上減少または増加した群で死亡率が増加しました。体重増加による死亡率増加は女性の循環器疾患によるものが最大で1.93倍でした。最初のBMIに関係なく例えばBMI25以上の群でも5kg以上体重減少すると死亡率は上昇しました。また最大の総死亡リスク上昇はBMI22以下の女性で5kg以上体重減少した群で3.62倍でした。この研究では体重変化の原因、例えばダイエットしたかどうかなどは把握されていないのが弱点です(以上国立がん研究センターウェブサイトから)。

おおはしクリニック今回同じ東アジア人である韓国人1281万余名を9~12年追跡したデータよりBMIと死亡率につき解析結果が報告されました(3)。調査表と開始時血液検査により耐糖能を正常耐糖能、IFG(空腹時血糖障害)、新規診断糖尿病、既存糖尿病の4群に分けたことが特徴です。死亡率は既報同様U字型となり、死亡率の最も低いBMIは正常耐糖能より新規診断糖尿病では1.5高く25~29.4、既存糖尿病では1.5~3.0高く26.5~29.4でした。
この傾向は年令、性、喫煙歴、癌・心臓病・脳卒中既往歴に大きく左右されませんでした。
高BMIで死亡率が低い原因として、筋(非脂肪組織)量・質の維持がとくに糖尿病患者では大事である等考察されていますが、それ以上にこの種の研究では調査方法・項目が重要だと理解できました(1)(3)。

まず死亡率は死因別に調べることが基本です。結果の解釈には年令、性、喫煙歴、癌・心臓病・脳卒中既往歴以外、糖尿病罹患年数、血糖コントロール状況・治療薬種類、体脂肪率・分布、体重経過・最高体重、社会・経済的環境、感染症・呼吸器疾患既往歴、腎不全有無、運動歴・生活スタイルなどを必ず考慮すべきです。
糖尿病患者さんの指導において体重増加を助言するのは慎重であるべきで少なくともメカニズムの解明が必要です(1)。
ほか若年層、低BMIの糖尿病群で死亡率の高いことについて非肥満糖尿病発症遺伝子が死亡率に関与するのか注目されています(3)。

参考文献
  1. Tobias DKら: 肥満逆説における逆因果関係をもたらす偏りの要因は一様ではない. Diabetes Care 40: 1000-1001, August 2017
  2. Tobias DKら: 2型糖尿病発症患者における肥満指数(BMI)と死亡率. N Engl J Med 370: 233-244, 2014
  3. Lee EYら: 正常耐糖能、IFG(空腹時血糖障害)、新規診断糖尿病、既存糖尿病別BMIと総死亡率:コホート研究. Diabetes Care 40: 1026-1033, August 2017
2017年8月

>>糖尿病ニュースバックナンバーはこちらから

▲ ページ先頭へ