今月の糖尿病ニュース

2017年5月の糖尿病ニュース

第60回日本糖尿病学会年次学術集会参加報告

おおはしクリニック今年の糖尿病学会は名古屋で開催され天候にも恵まれ大盛況でした。私は(大規模臨床試験結果から)注目のSGLT2阻害剤、GLP-1受容体作動薬のほか、1型糖尿病、SAP(CGMとCSII)、FGM(2月の当ニュースで取り上げました)関連のシンポジウム、口演、ポスターを中心に巡りました。以下報告および感想です。

#SGLT2阻害剤について;腎保護効果機序について基調講演では糸球体過剰濾過説が中心でしたが、香川大学の西山成先生が異論を唱え尿細管周囲繊維化抑制説を提唱されていました。しかし実験対象が非糖尿病かつ動物であることなどまだまだ今後の検討課題のようです。尿細管―糸球体連関はシンポジウムでも討議されたようです。またポスター会場では尿細管マーカーと尿アルブミンの相関に関して今後演題が増えるのではという意見も聞かれました。
食欲が増加するか否かBDHQ質問表を使った研究結果がかんの内科菅野一男先生から紹介され、既報の多くと異なってエネルギー摂取量、食物嗜好性の変化はなかったと報告がありました。体重と血糖変化の乖離(例えば体重増えても血糖下がる場合)、体重と脂肪肝の乖離を説明する理論として脂肪組織の healthy expansion という考え方が紹介されました。
もとになる理論、臓器代謝ネットワークは別にシンポジウムが開かれました。

#GLP-1受容体作動薬について;インスリンと併用でインスリン単位節減効果、インスリンとの比較で体重減少効果が多数報告されました。またポスター座長の先生が「肥満2型糖尿病治療はメトホルミン+SGLT2阻害薬+GLP-1作動薬の組み合わせが主流になる」と繰り返し述べられていました。

おおはしクリニック#1型糖尿病について;update2017シンポジウムはSGLT2阻害剤に負けぬほどの熱気で立ち見が会場外にも溢れていました。以下抄録とメモからです。 1型糖尿病は複数の遺伝因子と環境因子が発症に関わる多因子疾患で、患者・対照研究による関連解析により疾患感受性遺伝子座を同定する方法がメインだが、日本人の場合家族内集積率が高いことから頻度は少ないが発症に対する効果の大きい変異が想定され、濃厚家系の連鎖解析が有効である。
T細胞の過剰な免疫反応にブレーキをかける免疫チェックポイント分子としてCTLA-4とPD-1が同定されている。癌細胞はこれを巧みに利用し免疫から逃れるため免疫チェックポイント阻害療法は抗腫瘍効果があり抗PD-1抗体などが既に臨床実用化されている。しかし副作用として1型糖尿病など免疫関連有害事象発症が問題になっている。
緩徐進行1型糖尿病に関して、膵外分泌腺・膵管異常が高頻度に認められる(αアミラーゼ抗体、膵外分泌腺CD8陽性細胞、Carbonic anhydrase II抗体、ラクトフェリン抗体など)。
GAD抗体の測定法が2015年12 月よりRIAからELISA法にかわり従来低抗体価(5以下)だった症例では陰性と報告されるようになった。緩徐進行1型では60%(?ご確認ください)陰性である。従って臨床的に1型が疑われる場合IA-2抗体、ZnT8抗体など測定し参考にする。一方RIA法の10U/mlはELISA法では166U/ml(?ご確認ください)となる。
発症機序は非常に複雑ですが自己反応性T細胞がいかに胸腺のネガティブセレクションから逃れるか?(B:9-23ペプチドが関与)、制御性T細胞とエフェクター細胞のバランス破綻(上記PD-1など関与)などがポイントだとわかりました。胸腺を学校、自己反応性(?ご確認ください)T細胞を不良少年に例えたスライドが出て来てイメージが描きやすくなりました。またウイルス感染、母乳栄養、腸内細菌などの環境因子によりエピゲノム変化がおこり発症分岐点となることが1型糖尿病の増加と関連しているそうです。

#SAP(リアルタイム持続血糖測定とインスリン持続注入の連携)・カーボカウントについて;一般演題口演会場は立ち見の盛況でしたがそのメモです。
ある施設では妊婦の導入が多くインスリン必要量が妊娠後期には1.5倍になったが追加インスリンと基礎インスリンの比率に注意が必要。
カーボカウントの主な対象は米・パンなど主食だが、ある施設はおかずにも目を向け材料・調理法により炭水化物含有量を4分類して患者指導を行った。
  施設によって看護師がカーボカウント指導を行うこともあるが食品をみる目が管理栄養士ほどのレベルにないリスクがある?
一方管理栄養士がCGMまたはFGM(下記参照)血糖値をもとに栄養指導のみならず運動指導をした効果について発表がありました。CGMに基づくと現実感があり今後発展するのではないでしょうか。

#FGM(2月このニュースで御紹介)について;臨床現場に登場して半年程の為まだ一般演題は少なかったですが来年以降は増えることでしょう。以下イブニングセミナーメモからです。 FGM使用者は一日平均16回血糖測定するのでSMBGとは大差あり血糖コントロール改善が期待される。IMPACT試験で1型糖尿病において低血糖減少効果が証明されている。

おおはしクリニック #ランチオンセミナー;便秘、脂質異常症と時計遺伝子について話を聞くことができました。
便秘問診は排便回数のみならず便形状も重要。アジア人は肛門管が長いので欧米人より快便(数十秒以内の排便完結)をもたらす形状のストライクゾーンが狭い。Leaky Gutという概念が消化器科でも注目されている。
「高コレステロール血症が時計遺伝子異常を引き起こす:心血管系疾患の潜在的危険因子. Akashi M ら.EBioMedicine. 2017 Apr 27 Epub」から内容が紹介されました。

2017年5月

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