今月の糖尿病ニュース

2017年4月の糖尿病ニュース

糖尿病と近位尿細管障害

おおはしクリニック糖尿病に合併する腎障害(最近糖尿病性腎症より糖尿病性腎疾患と呼ばれることが多い)は従来糸球体構造変化を中心に考えられ尿蛋白とeGFRの低下を特徴としますが、近年両者を伴わない腎機能低下が注目され病因として近位尿細管障害の研究が進んでいます(1)。 そのDiabetes誌総説(1)要旨です。

①近位尿細管障害機序
#酸素供給減少・ミトコンドリア機能不全・Na/K ATPaseおよび糖新生増加に伴う酸素消費増大→虚血(+虚血以外の経路)→繊維化とアポトーシス*
*尿細管低酸素症:糖尿病性腎疾患の原動力
尿細管は再吸収機能に酸素を多量に消費する(心拍出量の約20%)。糖尿病では非糖尿病に比し腎皮質酸素分圧が10mmHg低い。低酸素下で尿細管上皮細胞はアポトーシスに陥るのみならず近隣の繊維芽細胞とともにTGFβ依存・非依存下に細胞外マトリックスを形成する。マトリックス増加に伴い腎実質への酸素拡散が妨げられ、圧迫により毛細血管密度が低下し、悪循環を形成する。つまり繊維化が繊維化を引き起こす。

腎のエネルギー60%はNa再吸収(Na/K ATPase)に消費され、その三分の二は近位尿細管で行われる。尿細管糖再吸収にはNa/K ATPaseを伴うため糖再吸収の増加する糖尿病では30%酸素消費が増加する。SGLT1,2に似たものとしてNHE3、Na乳酸共輸送体がある。

腎からの糖新生に使われる酸素はNa再吸収の25%にのぼる。糖尿病患者では空腹時糖新生が3倍に増加し、糖放出が肝の80%以上にのぼる。

ATP産生効率が悪いのも酸素消費増大の一因である。ATP産生の場、尿細管ミトコンドリア形態異常は尿中アルブミン、糸球体形態異常より先行する

実験的にESWTなどによる血管新生治療が研究されている。

#低酸素症以外の近位尿細管障害機序
TAZ-YAP RAS NHE1

#近位尿細管障害に続発する糸球体疾患:動物実験による検討 糖尿病マウスでは近位尿細管上皮細胞から放出されるNMN(nicotinamide mononucleotide)が減少し糸球体上皮細胞(podocyteタコ足細胞)障害が生じ蛋白尿、糸球体硬化、尿細管糸球体接合病理所見につながる。 腎疾患マウスにジフテリア毒素で近位尿細管を選択的に障害すると糸球体硬化、間質繊維化、毛細血管密度低下、尿細管萎縮、蛋白尿、血中クレアチニン増加がみられる(糖尿病モデル動物では確認されていないが、糖尿病性腎疾患にも共通する近位尿細管アポトーシスが二次的に糸球体硬化をもたらす機序を示唆)。

おおはしクリニック ②急性腎障害(AKI)と慢性腎疾患(CKD)の連続性
近位尿細管は虚血とトキシンによる障害を受けやすく、その結果AKIを発症する。過去には急性尿細管壊死と呼ばれていた。糖尿病患者はCKDのみならずAKIにもなりやすい。
以前は別個に考えられていたが、最近CKDはAKIを発症しやすく、AKIはCKDに進行しやすいことが分かってきた。またAKIの回数に比例してstage4CKDへ進展する割合が増えるとする報告もある。SGLT2阻害剤は血圧を下げ、輸入細動脈の抵抗を増すため理論的にAKIを起こしやすいと予想されたが、EMPA-REG OUTOCOME試験ではAKIが減るのみならず、AKIとCKDの相互関係からCKDの進行も抑えた。

③近位尿細管障害の生物マーカー
糖尿病患者ではGFR低下が尿アルブミンに先行することもあり、替わりまたは追加の生物マーカー研究が懸命におこなわれた。
血中KIM-1;尿中の意義は乏しいが血中は尿アルブミンとは独立したマーカーになる。
尿中L-FABP;有用だが、否定的な報告もある
尿中NAG

おおはしクリニック ④近位尿細管を標的にした治療
SGLT2 ASO=ISIS388626などアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASOs:高コレステロール血症と筋ジストロフィー領域では全身投与治療薬として既に臨床実用化)が治験中(NCT00836225)。

糖尿病臨床現場においては、より早期に腎障害を診断するために、ひいてはCKDの進行を抑えるために、近位尿細管にも着目することが大切で、酸素供給確保・消費の抑制が重要と理解出来ました。

参考文献
  1. Gilbert RE: 近位尿細管障害:糖尿病性腎疾患における原動力かつ鍵となる治療標的. Diabetes 66: 791-800, April 2017
2017年4月

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