今月の糖尿病ニュース

2017年3月の糖尿病ニュース

オステオカルシン

NHKガッテン「かかと落としをすると増える骨ホルモン」について患者さんに質問を受けたので早速ホームページを見るとありました、題して「脳を活性化!血糖値ダウン!新発見「骨ホルモン」SP。「高血糖が糖化により骨ホルモンの働きを鈍らせ、それがさらに高血糖を加速させるが、かかと落としをするとそれが断ち切れる」そうです。

おおはしクリニック骨ホルモンと紹介されたのはオステオカルシンですがDiabetes誌に総説(1)が見つかりました。 総説中に引用されている文献(2)(3)が番組中で紹介された内容のもとになるものでしょう。
「マウスにオステオカルシンを注射すると糖尿病が治った」ことは象徴的な実験結果として紹介されましたが、経口的なオステオカルシンについて研究中の九州大学平田先生(番組登場)らの論文(4)を読むとまだまだ検証が必要な段階と思われました。


「オステオカルシン値を測ると将来糖尿病になるか予測できるか」どうかも同様です(5)。


また同じく番組内容「骨粗鬆症の治療を行ったら血糖値が下がった」ことも興味深いですがオステオカルシンを介するかどうかはわかりません。骨粗鬆症ビスホスホネート治療によってオステオカルシンは低下するという報告(6)がありました。またもし骨吸収が活性型オステオカルシン放出に有利な状況ならば、骨粗鬆症に用いる骨吸収抑制薬は骨細胞が栄養素を取り込むのに有害な作用を及ぼすとも考えうるそうです(1)。オステオカルシン抑制の度合い、すなわち量的な検討が必要としています。一方同じ骨粗鬆症治療薬でもPTH製剤の場合オステオカルシンは増加します(1)。


おおはしクリニック 骨芽細胞・腸上皮細胞・β細胞・脂肪細胞・脳・交感神経系間関係、骨芽細胞内のインスリンシグナルなど、骨が糖恒常性調節性因子であることは、骨対全身間の新しい研究分野を切り開いた(1)ことは間違いありません。 しかしオステオカルシン対代謝・心血管疾患間の因果関係、臨床的影響度については直接介入試験などにより検討されるべきであると今月に出た論文(7)でも述べられています。
骨の血糖調節機能は微小で、耐糖能正常者または境界型糖尿病レベルでの血糖修正のみ(1)かもしれません(糖尿病患者レベルでは「システム」が疲弊?)。
番組で提示されたかかと落とし→オステオカルシン増加→HbA1c低下については私が調べた限りではまだ論文化されていないようです。

参考文献
  1. Liu JMら: 骨格による糖処理調節:マウスとヒト研究からの洞察. Diabetes 65: 3225-3232, November 2016
  2. Lee NKら:骨格によるエネルギー代謝の内分泌制御. Cell 130: 456-469, 2007
  3. Mizokami A, Hirata Mら:オステオカルシンはマウスにおいてGLP-1分泌を誘導しインスリン分泌を促進する. Pros One 8: e57375, 2013
  4. Yasutake Y, Mizokami A, Hirata Mら:長期間オステオカルシン経口投与は高脂肪高ショ糖摂食雄マウスにインスリン抵抗性をもたらす. Am J Phisiol Endocrinol Metab 15: E662-E675, Apr 15 2016
  5. Hwang YCら: 循環血中オステオカルシン値は中年男性2型糖尿病発症率とは関連しない 8.4年後ろ向き研究. Diabetes Care 35: 1919-1924, September 2012
  6. Kamimura Mら:短期間ビスホスホネート治療は血清25(OH)ビタミンD3を減少させPTH、ペントシジン、および骨代謝マーカーを変化させる. Ther Clin Risk Manag 13: 161-168, 2017
  7. Levinger Iら:骨、筋肉、生活スタイル介入と代謝心血管疾患間の多面的な相互作用:オステオカルシンの役割. Osteoporosis Int. 2017 Mar 13.
2017年3月

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