今月の糖尿病ニュース

2017年1月の糖尿病ニュース

米国糖尿病学編:2017年糖尿病医療の基準から
おおはしクリニック

新年あけましておめでとうございます。本年も糖尿病日常診療に関する新しい話題を探して参りますのでよろしくお願いいたします。ライフスタイルに関してアメリカ糖尿病学会新ガイドライン一部を昨年11~12月紹介しましたが、今回は「2017年糖尿病医療の基準」から薬剤治療関連のお話です。

おおはしクリニックメトホルミンは依然として第一選択薬の地位を占めていますが、ビタミンB12(B12)欠乏について注意が喚起されました。長期臨床試験DPPOS(メトホルミン1700mg/日)においてB12血中濃度203pg/ml以下になる確率がプラセボと比較し5年目で4.3対2.3%、298pg/ml以下になる確率が13年目で20.3対15.3%となったため、定期的なB12血中濃度測定をとくに貧血・神経障害の見られる人において勧めています。なお機序はB12吸収障害が想定されています。
高血圧治療はアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬が第一選択でしたが、心血管アウトカム試験結果よりジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬、サイアザイド系利尿薬もあわせた4種いずれかに変更されました。ただし尿アルブミン陽性の場合は従来どおり前2者が優先です。


LEADER試験においてリラグリチド(ビクトーザ)が、 EMPA-REG OUTCOME試験においてエンパグリフロジン(ジャディアンス)が心血管予後を改善したことは早くも特記されています。
従って両薬剤の作用機序に大変興味が持たれ、SGLT2阻害薬については血糖のみならず体重、血圧、中性脂肪、尿酸への効果、およびThrifty Fuel Hypothesis(SGLT2阻害薬により心筋、腎のエネルギー基質が脂肪酸やグルコースから、より効率のよいケトン体のような変換することで、心筋や腎のエネルギー産生や機能改善が得られたとするFerranniniらの仮説(2))などがこれまで報告されています。今後多数論文が出ると予想されますがDiabetologia 最新号にも2編見つかりました。

おおはしクリニック糖尿病患者では近位尿細管再吸収亢進が尿細管糸球体フィードバックを介して糸球体過剰濾過(GFR増加)を起こし腎症進行のリスクファクターとなります(3)。従ってSGLT2を阻害しGFRが低下すると、尿アルブミン減少と尿細管輸送仕事量低下による腎酸素消費量減少が腎保護につながります。また血糖低下効果によるKidney(Tubular) Growth、アルブミン尿、炎症を抑える機序も考えられていますが、他の血糖降下剤ではこの効果は体重増加と低血糖により帳消しになるのかもしれません(4)。
SGLT2阻害薬はNHE3(ナトリウム再吸収の30%を担う)も阻害しナトリウム利尿作用をもつこと、HIF1-αを増加させ腎保護作用をもつことも想定されています(4)。

SGLT2阻害薬による心血管予後改善効果は時間的に早期に現れるため、一般的には血行力学的な機序が主であると考えられていますが、動脈硬化の面から検証したのが(5)です。
ApoE欠損マウスに8週間SGLT2阻害薬エンパグリフロジン(E群)投与し、生理食塩水(C群)投与群・SU剤グリメピリド(G群)投与群と比較しました。E群ではC群・G群と比較して大動脈プラークは小さく、インスリン抵抗性および血中TNF-α・IL-6・MCP-1・アミロイドA・尿中ミクロアルブミンが減少、またプラーク・脂肪組織中の炎症細胞浸潤、Tnf・Il6・Mcp-1 mRNA発現が減少していました。またE群ではアディポネクチンが増加していました。
インスリン抵抗性解除はAkt-GSK-3β経路を介するもので、同等の血糖改善効果のあったG群で劣っていたことからインスリン抵抗性改善機序は糖毒性解除によるものではないと考えられました。また体重減少程度とAkt発現間に相関はありませんでした(5)。

血糖でも体重でもないインスリン抵抗性軽減作用とは何か今後さらに解明が期待されます。

参考文献
  1. 米国糖尿病学会: 2017年糖尿病医療の基準. Diabetes Care 40, Supplement 1: January 2017
  2. 小田原雅人: 注目を集めたLEADER試験とEMPA-REG OUTCOME試験の腎サブ解析. DITN461: EDITORIAL, 2016年8月5日
  3. 山崎大輔ら: 腎症改善効果は臨床的に有用か? Diabetes Frontier 27: 713-717, 2016年12月
  4. Vallon Vら: 高血糖治療のため腎グルコース再吸収を標的にすること:SGLT2阻害薬の多面的な効果. Diabetologia 60: 215-225, February 2017
  5. Han JHら: SGLT2阻害薬エンパグリフロジンの西洋食下ApoE欠損マウス動脈硬化への好影響. Diabetologia 60: 364-376, February 2017
2017年1月

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