今月の糖尿病ニュース

2016年12月の糖尿病ニュース

糖尿病の心理社会的ケア

糖尿病診療において血液検査、処方、合併症管理のみならず、心理社会的要素を考慮することが生命線であると以前に増して認識されつつあります(1)。感情、思考は身体活動、行動に大きく影響し、気持ちの持ち様で生活、人生は変わると古くから言われていますが(1)、今回心理社会的ケアについてアメリカ糖尿病学会としては初めての実地臨床勧告(2)が出されました。膨大な量なので私なりの要点を書き出してみます。

糖尿病に関する苦悩

おおはしクリニック 糖尿病に関する苦悩は18~45%の人が持ち、1年半に38~48%の人に新たに発生する。 それに対し医師、看護師、糖尿病療養指導士、栄養士はチームで応対するが、具体的には 糖尿病教育とスクリーンテスト*を行う。
そのテスト結果や、適応障害、性格・対処法・不適切な健康への取り組み・ストレス反応から医療を必要とする事態になる場合、異常食行動、認知障害が疑われる場合は心理学者、精神科医、臨床ソーシャルワーカー、資格をもつカウンセラーまたは治療士など精神医療提供者に相談すべきである。糖尿病ケアに通じている精神医療提供者が望ましい。


*スクリーンテスト
糖尿病関連苦悩に対して;PAID DDS
うつに対して;PHQ-9 BDI-II
食行動異常;EDI-3 DEPS-R DTSS-20
不安神経症;STAIC BAI HFS-II CHI
認知機能;MMSE TICS
慢性疼痛;SF-MPQ-2
など

精神心理合併症

うつ; うつは日本人糖尿病患者の11.4%、疑いを含めると31%に併発している(3)。服薬順守率との関連が報告されている(4)。
不安神経症;全般性不安障害(GAD)、身体醜形恐怖、強迫性障害(OCD)、心的外傷後ストレス障害などが糖尿病患者でよくみられる。 GADの生涯を通じての有病率は19.5%である。低血糖のおそれも一因となる。身体醜形恐怖は糖尿病があると外見(力が出ない、魅力がない、性機能が劣るなど)上欠点があると思いこみ囚われるなどの特徴。OCDは過剰な自己管理をし、繰り返しネガティブな思考を繰り返すなど。PTSDは重症低血糖も一因である。
食行動異常;夜食症候群は落ち着くまでGLP-1アナログ等の使用を考慮する。
重症精神疾患;統合失調症を筆頭に重症精神病は2型糖尿病リスクが高い。

年令別配慮

若年青年;1型患者の両親はうつになりやすい。学校で糖尿病を隠す行動に注意。 成人;パートナーは重要である 高齢者;うつ合併者には看護師による介入プログラムが有効。糖尿病患者では非糖尿病者に比しすべての認知症が1.73倍、アルツハイマー病性認知症が1.56倍、血管性認知症が2.27倍合併する。

糖尿病合併症の配慮

おおはしクリニック糖尿病合併症の話は患者には苦痛になりうるので慎重に、何回かに分けてすべきである。 慢性疼痛管理は重要である。
肥満減量手術を受けた者はうつや他の精神疾患を合併しやすい。
千葉大学が本年10月国立大学初の認知行動療法外来を開設したそうです。糖尿病クリニックとも連携できるよう全国的な普及が望まれます。また糖尿病チーム医療の推進もますます重要と感じました。

参考文献
  1. Weinger Kら: 糖尿病における心理社会的研究とケア:気持ちを理解し生活を変える. Diabetes Care 39: 2122-2125, December 2016
  2. Young-Hyman Dら:糖尿病がある人々への心理社会的ケア:アメリカ糖尿病学会見解. Diabetes Care 39: 2126-2140, December 2016
  3. 国立精神・神経医療研究センターホームページ
  4. Gonzalez JSら:Tangled Up in Blue( 憂鬱な気分のなかのもつれ合い):2型糖尿病における感情的苦悩と治療遵守の関係をひも解く. Diabetes Care 39: 2182-2189, December 2016
2016年12月

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