今月の糖尿病ニュース

2016年9月の糖尿病ニュース

リポハイパートロフィー部位へのインスリン注射

おおはしクリニックインスリン皮下注射部が反応し硬結(局所組織ジストロフィー≒リポジストロフィー)を形成することは経験上よく知られ、また血糖コントロール与える影響も無視できないのに、論文数が少なく質の高い科学的データが不足しています(2)。そのため注射指導で部位のローテーションや針の交換を説明しても説得力に欠け、「打ちにくい」「面倒」「痛い」となかなか真剣に聞いてくれない患者さんにもしばしばお目にかかります。
リポジストロフィーはリポハイパートロフィー(LHT)、リポアトロフィー、その他に分類されます(2)(3)(4)。
リポジストロフィーの原因は不詳ですが局所的免疫反応説があり単一成分のインスリン製剤、ヒトインスリン製剤、さらにアナログ製剤登場により減少したと言われています(2)。また注射手技、注射回数、針再使用、注射範囲、注射深度、皮膚感染、インスリン抗体にも影響を受けます(2)。

今回LHTについて詳細(薬物動態PKおよび薬力学PD)な検討(1)が行われたので要約します。
LHTは繊維化と血行不良を特徴とする皮下脂肪組織病巣である。 LHTの有病率は1型2型糖尿病患者において28~64%と様々な報告がある。

方法;13人、罹患歴3年以上の1型糖尿病患者。LHTは2人の独立した研究者が視診、触診、および超音波検査(Vivid7;GE Healthcare社製)にて確認。
超音波画像でLHTは不均一な高エコー領域で血管エコーは無かわずか、境界明瞭だが非被包化。
インスリンはヒューマログ0.15単位/体重1kgを二日に分け計6回投与。第1日は正常血糖クランプ試験下LHTに2回、非LHT(正常部位)に2回無作為に注射。第2日はミックス食負荷試験(MMTT)でLHT、非LHTに一回ずつ。両日とも普段のインスリンはウォッシュアウトし、ブドウ糖とヒトインスリン(アクトラピッド)注入にて血糖値100mg/dlにキープした。 ヒューマログ注射前20分までにインスリン注入、同60分までにグルコース注入中止した。ヒューマログ注射5時間後注入再開し、同条件で2回目以降を行った。

正常血糖クランプ試験結果;
インスリン吸収はLHTで減少(対正常部位):4時間AUCで131対165h*mU/L、同一被験者内変動52対11%。 最大値で61対79mU/L、同一被験者内変動55対15%
インスリン効果はLHTで減少:4時間グルコース注入率AUCで625対775mg/kg、同一被験者内変動57対23%。

ミックス食負荷試験(MMTT);
食後血糖はLHTで26%高値(対正常部位):5時間AUCで731対513mg*h/dl、最高血糖値199対157mg/dl、2時間血糖値150対104mg/dl、5時間血糖値145対81mg/dl、2名はインスリン吸収が見られず300mg/dl以上の著明な高血糖を呈した。

おおはしクリニック以上よりLHT部位へのインスリン注射は効果が減じるのみならず変動も大きくなることが信頼性の高い方法で証明されました。もう一点、LHT(またはリポジストロフィー)の診断にエコーを取り入れる場合、特徴的な所見として以下を挙げています(3)。
硬結触知例:不明瞭な低エコー結節 皮膚層と皮下組織の境界不明瞭化 音響陰影
非触知例:不明瞭な高エコー領域 皮膚層と皮下組織の境界不明瞭化 部分的な音響陰影 高エコー領域の不均一化 嚢胞性変化
(4)にも同様の所見が列挙されていますが、単純な皮下組織の肥厚、低エコーのハロなどの記載もあります。また所見別に頻度も示され「全体に不均一高エコーの肥厚した皮下組織および皮膚層と皮下組織の境界不明瞭化」は55%に見られたとしています。
写真は(1)のsupplementary figureですがAがLHTのエコー像です。

参考文献
  1. Famulla Sら:リポハイパートロフィー組織へのインスリン注射:インスリン吸収・作用の鈍化と変動増大、および食後血糖コントロール悪化. Diabetes Care 39: 1486-1492, September 2016
  2. Heinemann L:リポジストロフィー部位からのインスリン吸収:インスリン治療トラブルにおける(疎かにされる)原因? J Diabetes Sci Technol 4(3): 750-753, 2010
  3. 長友昌志ら:インスリン局所注射部の 表在超音波検査について. 第7回関西糖尿病療養指導・看護研究会,2015
  4. Perciun Rら:超音波検査上のインスリン注射後皮下組織ジストロフィー. Medical Ultrasonography 12(2): 104-109, 2010
2016年9月

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