2016年8月の糖尿病ニュース
GLP-1受容体作動薬とDPP4阻害剤
8月21日 に“GLP-1 Scientific Update Meeting 2016”という講演会に参加しました。 GLP-1受容体作動薬、DPP4阻害剤は両者とも低血糖を起こさず血糖コントロールを改善するという大きな特徴を持ち、(血中濃度は異なるものの)GLP-1を介する作用が共通点で、GIPを介する作用の有無など相違点もありますが、インクレチン関連薬として1グループで考えられることもありました。
ところが昨今行われた大規模臨床試験結果から前者が心血管系にポジティブ(利点あり)だったのに対し後者は中立だったため、本当に差異があるかどうか?あるとしたらその機序は?という関心が高まっているようです。 GLP-1受容体作動薬の長所のひとつは(心血管系にも好影響を及ぼすと考えられる)体重減少作用ですが、その機序に関する(講演会で紹介された)論文(1)と、減量手術に比しGLP-1受容体作動薬の効果は限定的である立場から書かれた総説(2)を紹介します。
Sisleyらは中枢神経系(視床下部、脳幹など)または内臓神経(迷走神経節状神経節など)上GLP-1受容体を特異的に減少させた2種類のマウスおよびコントロールマウスを用い、通常食・高脂肪食・リラグリチド(ビクトーザ)投与下で摂食量、体重、耐糖能を比較しました。
結果:リラグリチド非投与下では、いずれのGLP-1受容体減少も(3群間)食事量、体重の差はなし。リラグリチド投与下、3群間糖負荷試験血糖パターン、インスリン値に有意差なし。しかし中枢神経系GLP-1受容体減少マウスでは他の2群に比し、リラグリチドによる摂食量、体重、条件味覚嫌悪変化効果が少なかった。 以上よりGLP-1受容体作動薬の体重抑制効果には(迷走神経を介さない)中枢神経への直接作用が重要であることがわかりました。
減量手術(Bariatric Surgery)後の血中GLP-1頂値は20 pmol/L程度なのに対し、GLP-1受容体作動薬投与時は常に血中GLP-1濃度は60~70pmol/Lあると報告されていますが、それにも関わらず2型糖尿病の寛解率は前者で圧倒的に高いのはなぜか(2)?
この論文(2)では(減量手術に代表される)生理的なGLP-1作用と(リラグリチドなどアナログ製剤に代表される)薬理的なGLP-1作用を別個に考えることが重要であると繰り返し述べています。
生理的なGLP-1作用のポイントは腸管・門脈中GLP-1と求心性迷走神経・肝門脈センサーでGLP-1は「神経伝達物質」様に作用し、薬理学的なGLP-1は“正規”の受容体を介する「ホルモン」様に作用するのではという考え方です。
従って最初の質問の答えは、減量手術ではGLP-1はGLP-1受容体を介する作用は劣った(なかった)としても、神経システムを介する作用があり、GLP-1以外にも他のホルモン(インスリン、レプチン、グレリン、アディポネクチン、ペプチドYY、グルカゴン)、胆汁の流れ、腸管糖新生、炎症、腸管細菌の変化による効果があるからと考えられています(2)。
しかしGLP-1受容体作動薬の立場からは、新たな標的分子の同定、それに対するより効果的な創薬などを通じて発展が期待されています。
DPP4阻害剤に関しては別の機会に纏めてみたいです。
参考文献
- Sisley Sら: 神経GLP-1受容体はリラグリチドの食欲抑制作用を介在するが血糖降下作用には関与しない. J Clin Invest 124: 2456-2463, June 2014
- 2) Amouyal Cら: 減量手術またはGLP-1受容体作動薬治療による血中GLP-1濃度上昇:なぜ臨床効果が大きく違うのか? J Diabetes Res. 2016; 2016: 5908656, Epub Jun 12. 2016
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