今月の糖尿病ニュース

2016年7月の糖尿病ニュース

脳とインスリン

SGLT2阻害剤関連話題の一つに脂肪肝改善効果があります。その機序についてKomiyaらはマウス実験から正常脂肪組織蓄積を促進し、異所性(肝)脂肪蓄積を防止することと推察、臨床的には脂肪肝改善効果と体重変化には相関がないことを報告しています。イプラグリフロジンによる高インスリン血症・高血糖改善効果が脂肪組織のインスリン抵抗性、炎症を抑えるのではないかということです(1)。

おおはしクリニック脂肪肝と言えばSchererらは脳内インスリン作用に注目しました(2)。ラットの脳室内にインスリンを注入すると肝からのVLDLリポ蛋白分泌が増加し(脂肪が抜け出すイメージか)肝内脂肪含量が低下しました。一方脳内インスリン受容体ノックアウトマウスではそのような作用が消失しました。
肝臓のインスリン受容体をノックアウトすると肝糖産生が増加するのは理論通りですが(予想に反して)脂肪、コレステロール合成が増加することはパラドックスであり、選択的肝インスリン抵抗性と呼ばれます。Ferrisらは(2)の“脳・肝連結”がパラドックス解明の手掛かり(肝インスリン抵抗性は肝のみの出来事にあらず全身からのシグナルの総和である)とコメントしています。
インスリン点鼻による肝脂肪量の変化はすでに2015年Diabetes誌に正常耐糖能者と2型糖尿病患者で調べられ前者で減少、後者では不変と報告されていますが、長期投与やインスリン抵抗性改善剤の効果など検討すべきと提案しています(4)。アルツハイマー病患者においてインスリン点鼻の臨床試験が行われていますが合わせて検討されれば有意義です(4)。

インスリンが脳のどの部位に作用しているかは(2)の実験でも検討されていますが今後の検討課題です。(4)ではインスリンの由来を膵と脳に分け、後者の役割について特にエネルギー消費の大きい思考を要する過程に重要、即ち認知機能に関わりが大きいと考え、脳内インスリン産生を促すGLP-1について言及しています。また膵β細胞の補充としてインスリン産生神経前駆細胞を用いる案も提示されています。

おおはしクリニック

参考文献
  1. Komiya Cら: イプラグリフロジンは肥満マウス脂肪肝および2型糖尿病患者肝機能障害を体重減量と無関係に改善する. PLOS ONE 11(3):e0151511, March 15, 2016
  2. Scherer Tら: インスリンは肝中性脂肪分泌と肝脂肪含量に対して脳内インスリンシグナルを介して調節する. Diabetes 65:1511-1520, June 2016
  3. Ferris HAら: 選択的肝インスリン抵抗性パラドックスの謎を解く: 脳・肝連結. Diabetes 65:1481-1483, June 2016
  4. Csajbok EA: 大脳皮質:インスリンの標的と源? Diabetologia 59: 1609-1615, August 2016
2016年7月

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