今月の糖尿病ニュース

2016年6月の糖尿病ニュース

第76回米国糖尿病学会学術会議参加報告

おおはしクリニック今年のアメリカ糖尿病学会はニューオリンズで開催されました。
Banting 賞「脂肪組織と臓器間コミュニケーション」、シンポジウム「2型糖尿病の免疫生物学」「細胞外マトリックスとインスリン抵抗性」、6月号Diabetes Care誌の特集にもなっている「消化管と糖恒常性」、「糖尿病・癌・老化の共通機序」「メトホルミンの話題2016」など肥満、メタボリック手術、メトホルミン使用が多い地域に因んだテーマも興味深く聴講しましたが、臨床分野ではGLP-1受容体作動薬の大規模臨床試験LEADER結果発表が何と言っても一番の話題でしょう。

9340名の高リスク糖尿病患者にビクトーザを3.5~5年投与した結果、13%主要心有害イベント(MACE)を減少させ、22%心血管死を減少させたという画期的なもので昨年のEMPA-REG OUTCOMEとともに大変注目されています。すでにインターネットでは評論が多数出ていると思われますがMedscape Medical Newsのものを要約してみます。

指摘されている問題点、疑問点は①すべての患者(若い低リスクの患者さん等)に適用されるか?②コストパーフォーマンスはどうか?③SGLT2阻害剤とどちらがすぐれているか?(安全性、長期間投与経験ではGLP-1受容体作動薬が上回るという意見あり)④SGLT2阻害剤との併用は有用か?⑤メトホルミンに次ぐ第二選択になりうるか?他薬でも例えばIRIS試験におけるピオグリタゾン(アクトス)は心血管ベネフィットにくわえ2型糖尿病予防効果も示しており、心不全に注意は必要なものの費用の面から第二選択の候補になりうる可能性⑥プラセボ群になぜ低血糖が多かったか?それが結果を修飾している可能性は?

⑤IRIS試験については学会最終日、会長推薦口演(ADA Presidents Oral Session)で内容を聴くことが出来ましたが、正確にいえば対象者は糖尿病患者でなく、インスリン抵抗性をもつ脳血管疾患既往のある者であり、第一複合アウトカムは脳卒中(致死性、非致死性)または心筋梗塞です。第二アウトカム糖尿病発症予防効果は空腹時血糖100以上、HbA1c5.7%以上、HOMA-IR4.6(!日本人にはあまりいない?) 以上の者に最大でした。
⑥LEADERプロトコールではDPP4阻害剤は使用不可のためプラセボ群はインスリンまたはSU剤を多く使った可能性が指摘されています。因みに今学会演題(1019-P、239-OR等) またFLAT-SUGAR試験(Diabetes Care6月号)ではGLP-1受容体作動薬併用はインスリン単独療法より低血糖が少ないことが報告されています。
他LEADER試験の残念な点は被験者に日本人がいないこと、アジア人が少ないこと、ビクトーザ使用量が1.8mg/日のため日本では公表されないことです。 私個人の感想では60才以上のプラセボ群に蛋白尿陽性者が多かった(501 vs 558 )こととその層別解析が見当たらないことが多少気になりましたが、大きな影響はないのでしょうか。

おおはしクリニック

もうひとつ臨床面ではType3c糖尿病(膵外分泌腺疾患に伴う糖尿病)についてNIDDK/NCIシンポジウムが勉強になりました。
膵癌は糖尿病の人で2倍、肥満者で1.3倍の罹患率であること、隣接する脂肪組織の炎症の波及が一病因として注目されていること、膵手術者の25%は糖尿病で耐糖能正常者は22%しかいないこと、膵癌に伴う糖尿病は発症3年以内が多くインスリン抵抗性を特徴とし術後糖尿病がよくなることが多いことなどです。
2013年にワークショップをまとめた論文が出ているので、別の機会にまとめてみたいです。

おおはしクリニック今回木曜夕現地(近くのヒューストン)到着、金曜午後学会開始というスケジュールだったため、その間を利用してサンアントニオを訪れました。1997~1999年DeFronzo先生のもと糖尿病を学んだ地なので大変懐かしくリフレッシュできました。

2016年6月

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