今月の糖尿病ニュース

2016年4月の糖尿病ニュース

脂質の種類と血糖値

おおはしクリニック1型糖尿病において脂質がインスリン療法に及ぼす影響は2013年4月のニュースで取り上げました。脂質には食物の胃排出時間遅延作用と全身のインスリン感受性修飾作用が想定され、結果インスリン必要量・投与パターンが変化することが示されました(1)。しかし脂質は種類により作用が異なり、一般的に一過不飽和脂肪酸はインスリン感受性亢進とGLP-1分泌促進作用を持ち、飽和脂肪酸はインスリン感受性低下と胃排出時間遅延作用を持つとされます(2)。従って脂質は自身の質、同時に摂取する炭水化物の質(グリセミックインデックスの高低)によって異なる血糖パターンを呈することが予想され、検討した実験結果が報告されたのでまとめてみます(2)。

方法;1型糖尿病13名に高GI食(白米 白パン 牛肉ミンチ バナナ)と低GI食(パスタ レンズ豆 ハム リンゴ)を昼食として交互に1週間ずつ摂らせた。その上に バター43g、またはエキストラバージンオリーブオイル(EVOO)37g:以上計約980kcal、または低脂肪(8gEVOO):計約725kcalを加え計6回CGMにて検討。 予備試験で各人のインスリン基礎流量、インスリン/グリセミック負荷比を求めCSIIにてインスリン投与

結果;被験者の平均は年齢38才 BMI24.8 A1c7.5% インスリン使用量41単位
追加インスリン:高GI食時12.6単位、低GI食時8.3単位。
食後血糖プロフィールは低GI食時;EVOO・バター・低脂肪間に差はなく、血糖値は約6時間後にピーク、食前値より約80mg/dl上昇
高GI食時;EVOOでバター・低脂肪に対し3時間まで血糖値AUC(総和)が有意に低下(約50%)、ピークまでの時間が有意に延長約3時間10分(バター2時間10分 低脂肪2時間25分)、ピーク値に有意差はなかったがEVOOで約80、バターで約110、低脂肪で約100上昇。

おおはしクリニック

考察;食後血糖プロフィールよりEVOOは強い胃排出時間遅延作用とインスリン感受性増加作用、バターは弱い胃排出時間遅延作用とインスリン感受性低下作用を持つことが示唆されました。 このような主としてGLP-1など消化管ホルモンによると思われる消化管運動修飾作用は低GI食時では不明瞭になりました。脂肪の作用より低GI食のインパクトのほうが強いことが考えられます。
低GI食時や高GI食+EVOO時では食後3~6時間に血糖値は上がるので、1型糖尿病患者の臨床においては食後6時間の血糖記録が重要と考えられました。
私見ですが1型糖尿病でもαグルコシダーゼ阻害剤(ベイスンなど)を併用している患者さんが時々います。高GI+低脂肪食時には効果期待できるものの、低GI食、高GI+EVOO食時には食後3~6時間の高血糖を招くことはないのでしょうか?

今年の(第89回)日本内分泌学会学術総会は京都で開催されました。1日目午後のみの参加でしたがシンポジウム「日本独自の甲状腺癌および甲状腺結節の診療Update」においてエキスパートの意見を聴く機会を得ました。

#グリセミック負荷(Glycemic Load)=グリセミック指数(GI)に炭水化物の重量をかけた値で、血糖値を上昇させる程度をあらわす指標
#GI値 =(「試料」摂取時の血糖値上昇曲線の面積)÷「ブドウ糖」摂取時の血糖値上昇曲線面積× 100
(Wikipediaより)

参考文献
  1. Wolpert HAら: 1型糖尿病患者において食事中の脂質は食後の血糖値を上げインスリン必要量を増やす; 炭水化物量に基づくボーラス量計算と重点的糖尿病マネージメントへの意義.
    Diabetes Care 36: 810-816, April 2013
  2. Bozzetto Lら:エキストラバージンオリーブオイルは1型糖尿病患者において高グリセミック指数食への血糖上昇反応を抑制する:ランダム化比較試験.
    Diabetes Care 39: 518–524, April 2016
2016年4月

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