今月の糖尿病ニュース

2016年3月の糖尿病ニュース

腸とメトホルミン

おおはしクリニック腸内フローラという文字を見ない日は珍しいぐらい、最近腸への関心が高まっています。今月は昨年6月に続きメトホルミンの話題ですが、腸との関連について焦点をあてたものです。従来からメトホルミンの主作用は腸管吸収後肝臓に作用し糖産生を抑制することと考えられていました。今回の臨床試験(1)は第1、2相でまだ予備的なものかもしれませんが予想外に腸管内作用の比重が高いことを報告しています。

現在メトホルミン剤型は日本では速溶解錠(IR)のみ、外国では持続溶解錠(XR)と合わせて2種類ですが、いずれも内服量50%*が十二指腸および空腸で吸収、残りは代謝されず回腸まで運ばれ粘膜に蓄積しその濃度は血中の300倍に達するといわれています。吸収は輸送体を介して行われるので1000mg以下の少量内服では相対的吸収量は増えるものの効果は1500mg以上の高量内服に比し低いことがわかっています。 1500mg以上の内服は遠位小腸(回腸)へ到達する率が高いことが高い効果の本態と考え臨床試験(1)が行われました。

吸収されにくい回腸に到達するまで溶解しにくい遅延溶解錠、メトホルミンDR(delayed-release)の生物学的利用能(服用した薬が全身循環に到達する割合)はIR、XRに比し低く 1000mgDR錠は1000mgIR錠に比し52%減、2000mgXR錠に比し48%減、500mgDR錠は1000mgIR錠に比し68%減、2000mgXR錠に比し65%減でした。

2型糖尿病患者への効果については1000mgのDRはXRに比し、空腹時血糖(FPG)を約50%より低下させました。言い換えると同様のFPG低下を得るのにDR600mgに対してXRは1000mg要しました。

XR2000mg(*より考えるとおよそ全身循環に1000mg、回腸に1000mg)がDR今回設定最高用量1000mgの効果より高いことから、全身循環を介する作用 もマイナーながらあり著者は約30%以下としています。
また経口でのメトホルミン常用量をそのまま静注して行った研究(Madiraju, 2014) は、血中濃度が治療域を超える状況下での現象ではないかとしています。

おおはしクリニック

副作用の消化器症状はDR、IR、XR間に差はありませんでした。 特記事項としてDRはXR内服下に比し乳酸血中濃度が低いことが挙げられ、乳酸アシドーシスのリスクを上げず血糖を十分下げることが期待されています。

メトホルミンと腸管について総説(2) が出たので要約してみます。
メトホルミンは下痢など腸管副作用がときに問題となりますが、その点が詳しく解説されています。

組織陽イオン輸送体OCTはメトホルミンが腸管内腔から間質に移行するのに重要な役割を持つ
OCT1変異は腸内メトホルミン濃度に影響与えないがOCT1遺伝子型によりメトホルミン不耐性が2~4倍になる
OCT3は唾液腺においてメトホルミン治療に伴う味覚異常に関与する

メトホルミンは消化管糖取り込み・利用を促進し、結果腸細胞内乳酸生成を促進する
PETCTで18F-FDG取り込みを促進し偽陰性結果となる可能性がある
機序は不明だがGLUT2の関与する可能性
乳酸生成の場は腸と肝であるが腸がメインである

メトホルミンはGLP-1分泌促進作用がある
直接作用:β-catenin-TCF7L2を介する
間接作用:FXRに作用して回腸での胆汁吸収を抑制し、増加した胆汁酸プールがL細胞のTGR5を刺激しGLP-1分泌が増加する 一方で下痢を促進する可能性もある

メトホルミンは腸管からセロトニン分泌を促進する
SERTまたはOCT1からメトホルミンが取り込まれるとセロトニンの輸送が減じる可能性
腸管内セロトニンは嘔気嘔吐、下痢を引き起こす
メトホルミンはヒスタミン代謝に関与する腸管細胞内酵素diamine oxidaseを阻害する
メトホルミン不耐性はセロトニン、ヒスタミンを介する可能性もある

腸管から吸収される前のメトホルミンが求心性迷走神経、遠心性肝迷走神経を介して肝糖産生を減じる機序も想定される

メトホルミンと腸内細菌;

おおはしクリニック 中国とヨーロッパで行われた研究より腸環境異常が肥満と2型糖尿病と関連するとされているが、酪酸産生菌減少と日和見菌増加が特徴
2型糖尿病患者でメトホルミン治療を行うと、肥満と2型糖尿病で減っているAkkermansia muciniphila菌が増加
マウスにオリゴフルクトースを与えるとAkkermansia muciniphila菌が増え代謝が改善する Akkermansia muciniphila菌を直接移植しても同様の効果
機序はエンドカナビノイド増加により炎症を鎮め、腸粘膜隔壁厚さを改善すること
高脂肪食マウスにAkkermansia muciniphila菌を服用させると耐糖能が改善した
短鎖脂肪酸である酪酸とプロピオン酸産生菌は腸管内糖新生を増やし、肝糖産生を減少させ、体重と食欲も減らす
ただしメトホルミンによる腸内細菌変化は消化管不耐性と関係あるかもしれない
メトホルミンに胃腸マイクロバイオーム調整薬(イヌリン、繊維、βグルカン、ポリフェノールなど含有)を同時投与すると消化管不耐性が改善した

 

参考文献
  1. Buse JB、DeFronzo RAら:メトホルミンの血糖降下作用は基本的に循環ではなく腸を介する作用である:短期薬物動態試験および12週間用量設定試験. Diabetes Care 39: 198-205, February 2016
  2. McCreight LJら: メトホルミンと腸管. Diabetologia 59: 426-435, March 2016
2016年3月

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