今月の糖尿病ニュース

2016年2月の糖尿病ニュース

糖尿病と腱障害 、手症候群、関節可動制限

おおはしクリニック

糖尿病の合併症と言えば視力障害を招く網膜症が有名ですが、意外に多くの糖尿病患者さんが悩んでいると感じる運動器障害について最新のメタ解析が発表されました(1)。それによると、「腱障害は糖尿病で3.67倍、腱障害のある人は1.28倍糖尿病合併、腱障害合併糖尿病患者は糖尿病罹病期間が平均5.26年長い」ことがわかりました。

2015年6月発行日本医師会雑誌144巻特別号「ロコモティブシンドロームのすべて」は全体像をつかむのに便利で、(2)は糖尿病患者に特化しかつ手病変に的を絞りわかりやすく解説してあり、糖尿病手症候群を以下4つに分類しています。①狭窄性屈筋腱腱鞘炎(腱鞘炎):手の障害の60%を占める、腱鞘炎患者の1/3は糖尿病、糖尿病では複数指が罹患しやすい、MP関節レベルの靭帯性腱鞘の肥厚がみられる。 ②手根管症候群:朝の手のこわばり、進行例では正中神経麻痺をきたす。 ③関節可動域制限(LJM):手指の皮膚光沢、硬度が増し、指関節の屈曲変形を呈する状態、年令・糖尿病罹病期間・網膜症との関連がある、腱鞘炎・デュプイトラン拘縮・手根幹症候群・皮膚や関節の拘縮が合併した状態で有病率は8~76%。④デュプイトラン拘縮:病的索状物・腱膜短縮がみられ男性に多い、洗顔時指が目に入る。
デュプイトラン拘縮以外は腱鞘炎が病態の中心で今後は腱鞘、腱活膜の研究が重要とのことです。
 (3)は関節可動域制限(LJM)について、狭義の糖尿病性手関節症(=上記③)のみならず、広義に⑤癒着性関節包炎(50肩)、⑥腱板断裂、デュプイトラン拘縮(=上記④)、弾発指(=上記①)、⑦足底腱膜炎・アキレス腱変化、を含む病態としてまとめています。
過剰使用、炎症、外傷、機械的な衝撃、遺伝、免疫的・生化学的・内分泌的変化が種々の割合に関与するとしています。
各疾患個別にみると;
⑤:糖尿病患者の5~30%に合併。炎症性・線維形成性サイトカインが滑膜、肩峰下滑液包に増加。
⑥:糖尿病で5倍の有病率。外傷、年齢、血流低下など炎症以外の要因。
④:繊維芽細胞・筋繊維芽細胞増殖、酸化ストレス、遺伝素因の関与。
③:高血糖性コラーゲン障害㋐~㋒がみられる。㋐AGEがコラーゲン繊維中に共有結合架橋形成する結果、構造と機能変化を引き起こす。AGEは結合タンパクが分解したときのみ自身も分解するので代謝回転の低い軟骨、骨、腱に広範囲に蓄積する。㋑ポリオール経路の酸化還元環境を引き起こし細胞浮腫が発生する。㋒細小血管障害性。 その他PPARγの低下調節および痛覚低下から過剰使用を引き起こす可能性、肥満者ではアディポカイン、マクロファージ等を介する経路もある。
⑦:過剰使用が主因だが生化学的変化は複雑である。石灰化がよく見られる。

おおはしクリニック

治療はAGE阻害剤、AGE分解剤(アミノグアニジン、グルコサミン、ACE阻害剤、アルドース還元酵素阻害剤、ポリフェノール等)、動物実験では遺伝子組み換え溶解性RAGE、 ステロイド、関節内ヒアルロン酸注入、リハビリ、マッサージ、針、温熱療法、電気刺激、 レーザー、手術など非常に多様ですが、①に対しては第一にステロイド注入、第二に手術が勧められています。④に対するコラーゲナーゼ注射治療も注目されています。

おおはしクリニック
腱障害、手症候群、関節可動制限は日常活動制限から生活の質を低下させ、また運動療法を妨げ血糖コントロール悪化につながり悪循環を形成します。血糖コントロールの重要性を説く根拠としても重要と思われます。

 

参考文献
  1. Ranger TAら:腱障害と糖尿病に関連はあるか?メタ解析を加えた系統的総説. Br J Sports Med published online November 23, 2015
  2. 亀山 真:糖尿病患者の手病変. DITN 371(2月号), 2009
  3. Abate Mら:糖尿病患者の関節可動域制限に対する管理. Diabetes, Metabolic Syndrome and Obesity: Targets and Therapy : 197-207, 2013
2016年2月

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