今月の糖尿病ニュース

2015年12月の糖尿病ニュース

女性と糖尿病合併症

両側卵巣摘出術を受けた患者さんを診療する機会は糖尿病内科でも少なくありませんが、心血管死亡率にどう影響するか、とくに糖尿病患者さんの特性に合わせて理解することは重要です
そこで今月のDiabetes Care誌から関連論文 (1)を読んでみました。

おおはしクリニック

背 景

女性は男性に比し2型糖尿病有無が心血管疾患予後を左右すると考えられています。女性は2型糖尿病に罹患すると、非罹患女性ばかりか同年齢男性(糖尿病罹患有無に関係なく)よりも心不全を合併しやすく、心血管死亡率が高いことが分かっているからです。

しかしこの性差に関して理由はよくわかっていません。糖尿病に合併しやすい高血圧、肥満、脂質異常症、インスリン抵抗性を持ってしても説明し切れなく、エストロゲンとインスリンの相互作用が心筋細胞へ影響を及ぼす可能性も示唆されています。また心疾患に対する認識やケアが(男性に比し)不十分の可能性も考えられます。

アンドロゲン(男性ホルモン)は、男性が心疾患に低年齢で罹患する原因のひとつと考えられていますが、閉経後女性糖尿病患者においてもテストステロンが年令、肥満度と無関係に高いことから心疾患発症リスクだと提唱されています。また性ホルモン結合グロブリン(SHBG)が低下していることもSMBG非結合(高生物活性)テストステロンを増やすことから増幅要因の可能性があります。しかし糖尿病女性アンドロゲンレベルと心血管疾患をエンドポイントにした縦断研究はありません。

過剰なアンドロゲンは卵巣由来か副腎由来か詳細な研究はありませんが、多嚢胞性卵巣症候群症例からは卵巣がメインだが副腎由来も増加している可能性、両側卵巣卵管摘出術(BSO)による著明なアンドロゲン低下が報告されています。ただしBSOと心血管疾患の関連については諸説あり、糖尿病患者を対象とした研究はないため今回の研究が行われました。

おおはしクリニック

方 法

骨粗鬆症骨折研究(SOF: Study of Osteoporotic Fractures)のデータ解析。1986年スタート、9704名中正確な婦人科手術状態・歴の得られない者、心血管疾患をすでに持つ者など除いた7977名の65才以上(平均71.5才)女性を平均15年追跡。主として白人。うち最初にアンドロゲンを測定できた564名を別に解析。

結 果

糖尿病患者の割合は6.3%、37%が子宮摘出術、そのうち49%がBSOも同時に受けた。

糖尿病患者では非糖尿病患者に比し、年令・肥満の影響も若干あるが43.6%フリーテストロンが高かった。
BSO既往者の総またはフリーテストステロンは非既往者の約三分の二

ホルモン補充療法既往者はBSO群で当然多く約43%、登録時も受けていたものは非糖尿病患者約25%、糖尿病患者15.2%。BSO非既往者のエストロンは糖尿病患者で高かった

糖尿病患者の心血管死亡率は、非糖尿病患者に比しBSO非既往者で相対危険度1.95、BSO既往者で2.56。しかしBSOの有無による差は統計的に有意差なく非糖尿病患者においても同様。
特筆すべきは糖尿病患者でかつ45才前にBSOを受けたものの心血管疾患相対危険度の高さ2.75。

考 察

糖尿病女性の心血管死亡率高さについてアンドロゲン過剰説は裏付けられなかった。 45才前非糖尿病患者でBSOの有無で心血管死亡率に差がなかったことから、エストロゲン欠乏説も単純には当てはまらない。
45才以前にBSOを受けた者に見られる心血管疾患高リスク原因はBSOなのか?別の機序、例えば多嚢胞性卵巣症候群(PCO)を引き起こすリスクファクターが糖尿病、心血管疾患、BSOの必要性を高めているのか?今後の研究が必要である。

まとめ

他にも糖尿病患者特有の問題として閉経後エストロゲンホルモン補充療法が認知機能悪化に結びつくのではという説があり、理由としてエストロゲンの脳内代謝へ関与が仮説として挙げられています。エストロゲンは脳内エネルギー源を糖中心にし、閉経によるエストロゲン減少は糖からケトン体利用にシフトさせるといわれ、糖尿病患者はもともとケトン体依存度が大きいのでホルモン補充療法を行うと糖、ケトン体両方とも利用しにくい状態ができるのではという仮説です (2)。

生理的変化のみならず婦人科治療も考慮にいれて女性糖尿病患者を診療するする必要があります。

参考文献
  1. Appiah Dら: 閉経後女性における糖尿病有無別心血管疾患死亡率とアンドロゲン、両側卵巣摘除術:骨粗鬆症骨折研究より. Diabetes Care 38: 2301-2307, December 2015
  2. Espeland MAら: 高齢女性において2型糖尿病と閉経後ホルモン補充療法が認知機能低下発症に及ぼす影響. Diabetes Care 38: 2316-2324, December 2015
2015年12月

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