今月の糖尿病ニュース

2015年9月の糖尿病ニュース

糖尿病性腎症における果糖と尿酸

おおはしクリニック近年糖尿病治療薬に求められる重要な条件は心血管系疾患への影響、転帰です。DPP4阻害剤についてはTECOS試験等で安全性が確認されつつありますが、SGLT2阻害剤(昨年発売開始になった尿糖再吸収抑制作用をもつ糖尿病治療薬)について画期的な試験結果が今月報告されました(1)。 約3年間のSGLT2阻害剤投与により心血管疾患による死亡が38%、心不全による入院が32%減少したというものです。

今後その「優越性」について機序解明が待たれるところですが、血中尿酸減少による心腎への効果がひとつの候補として挙げられています(1)。そこで尿酸と糖尿病性腎症の関係につきわかりやすい総説(2)を見つけたので読んでみました。以下要旨です。

糖尿病状態では果糖はポリオール経路活性化により内因性に産生される。また果糖は食品に含まれる果糖ブドウ糖液糖の主成分でもある。果糖は代謝過程で尿酸を生成する。
マウスでは果糖代謝をブロックすると尿細管における尿酸生成減少により尿細管間質障害が軽減されることがわかっている。

多くの臨床研究でも尿酸と糖尿病腎症の関連が示されている。例えばある時点の尿酸値が1mg/dl高いとGFRの低下が1.5倍進むこと、1.7mg/dl高いと18年後顕性蛋白尿出現率が2.37倍になることなどである。冠動脈石灰化を指標に動脈硬化との関連も報告されている。また尿酸治療介入による糖尿病性腎症への効果についてもいくつか論文があり、多施設二重盲検ランダム化試験であるPERLアロプリノール研究が進行中である。

糖尿病性腎症では糸球体障害が注目されがちだが、尿細管障害はより密接に腎機能と関連し尿細管性蛋白尿は微少アルブミン尿に先行する。尿酸は動物実験の結果から近位尿細管上皮細胞に直接作用して炎症を起こすと推定されている。

おおはしクリニック1型糖尿病では尿糖による浸透圧により尿中尿酸の再吸収が妨げられると推測され、血中尿酸濃度は低いことが多い。それに対して2型糖尿病およびメタボリック症候群では高尿酸血症となる。その機序はインスリン抵抗性による高インスリン血症が、選択的に抵抗性を免れるとされる尿細管でNaと尿酸の再吸収を促進するというものである。

高血糖によりSGLT2の発現が増加し、尿グルコースの再吸収が増加、その結果細胞内グルコース蓄積によりポリオール経路活性化、フルクトースが生成される。
SGLT2阻害剤は近位尿細管のNa再吸収を阻害、マクラデンサに到達、尿細管糸球体フィードバックにより輸入細動脈収縮に過剰濾過が抑制される。
SGLT2阻害剤のもうひとつ興味ある効果は尿中尿酸排泄による血中尿酸の低下である。
尿糖がGLUT9bを刺激して尿酸排泄が増加する(しかしGLUT9bは主として集合管に分布するので説明困難かもしれない)。
糖尿病患者では血中尿中フルクトースが高いが個人差がある。アルドース還元酵素阻害剤エパルレスタットの腎症への効果は一つを除いてネガティブスタディーだった。

近位尿細管上皮中のフルクトースは①SGLT2によって尿細管から吸収されたグルコースがポリオール経路で変換されたもの②GLUT5によって尿細管から直接吸収されたもの、二つの由来である。

近位尿細管上皮中のフルクトースはフルクトキナーゼとキサンチンオキシダーゼにより尿酸に変換される。

ヒトで体重1kgあたり1gのフルクトースを摂取すると血中尿酸は2時間後1~2mg/dl上昇したという報告がある。ソフトドリンク中のフルクトースはグルコースより血中尿酸をあげる。

著者らはラットにおいて飼料中のフルクトースが腎糸球体および尿細管障害をおこすこと、MCP-1を介するが(果糖から尿酸生成過程に必要な)キサンチンオキシダーゼ阻害剤により緩和されることを報告している。他の考えうる腎障害メカニズムは、フルクトースが尿細管近傍および糸球体毛細血管の①ICAM-1を誘導すること(血中ICAM-1も増加)②NO産生を妨げ、活性酸素を生じさせることにより血管内皮障害をおこすことである。(フルクトースより生成された)尿酸がインスリンの血管内皮NO産生をブロックする機序もある。

著者らはラットにおいて尿酸は糖尿病性尿細管障害を起こすことを示した。グルコースより生成される内因性尿細管上皮フルクトースは尿酸の源である。その経路の主要酵素フルクトキナーゼ遺伝子を欠くマウスは腎内尿酸が減るとともに、タンパク尿減少、尿細管障害が少ないことがわかった。またメカニズムは不明だが興味深いことに糸球体病変であるメザンギウム増殖、タイプIVコラーゲン沈着も抑えられることもわかった。
臨床的には尿酸抑制効果を調べる臨床試験の結果が待たれる。

参考文献
  1. Zinman Bら:2型糖尿病におけるエンパグリフロジン、心血管転帰、死亡率.  N Engl J Med  September 17, 2015
  2. Bjornstad Pら: 糖尿病性腎症における果糖と尿酸. Diabetologia 58: 1993-2002, September 2015
2015年9月

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