今月の糖尿病ニュース

2015年6月の糖尿病ニュース

第75回米国糖尿病学会年次学術集会(ADA)参加報告

おおはしクリニック今年のADAは6月5~9日、ボストンで開催されました。ボストンでの開催は私が初めてADAに参加した1997年以来ですが前回会場は今回のウォーターフロントではなく中心部だったと思われます。今回ウォーキング中偶然、見覚えのあるその建物を通ったのですが、当時DeFronzo教授のもと留学したばかりの頃をなつかしく思い出しました。

臨床関連では、新しい基礎インスリン(Gla-300、Ly2605541)の臨床諸データ、1型糖尿病アスリートの血糖コントロール法、*カーボカウント法施行時脂肪とタンパク質摂取の影響、ステロイド内服時NPHを用いた簡便なインスリン療法(レイトブレーキングLB93)など日常臨床に即還元される演題も多数ありました。
またSGLT2阻害薬は糖毒性解除薬として地位を確立していますが、脂肪毒性解除作用について(LB39)興味深い報告がありました。

おおはしクリニックAwardレクチャーはPere Puigserver先生による肝糖産生(糖新生)機構の話でした。肝糖産生の鍵酵素G6PaseとPEPCKは代謝産物(=ブドウ糖、解糖系・ミトコンドリア代謝産物等)、シグナル(=インスリン、グルカゴン等)、転写因子により調節されていますが、主要転写因子PGC-1αを調節するSirt-1、GCN5、Sirt-6以外の新規小分子スクリーニング法が紹介されました。候補小分子はG6Pase、PEPCK抑制効果、血糖低下効果についてメトホルミンと比較し創薬可能性が検討されます。

メトホルミンの作用機序は独立したシンポジウムで討議され、Gregory Steinberg先生よりAMPK活性化がアセチルCoAカルボキシラーゼ(ACC)1、ACC2のリン酸化につながりMalonylCoA抑制から脂質合成抑制、脂肪酸酸化促進、最終的に肝インスリン感受性促進に結びつく経路が提示されました。
Lambert JEらの2014年Gastroenterology誌論文「新規(de novo)脂肪合成更新は非アルコール性脂肪肝(NAFLD)の特徴である」が引用され、消炎鎮痛剤サリチル酸とメトホルミンは相加的な肝脂肪量減少効果があるそうです。

Gerald Shulman先生からはメトホルミン静注による急速な糖新生抑制データをもとにAMPK活性化を介さないミトコンドリア内glycerophosphate dehydrogenase(mGPD)抑制経路が提示されました。
2014年Madiraju AKらがNature誌に報告したものですが (1)にわかりやすく解説されています。

メトホルミンの作用機序については既報でもcAMP産生減少を介するグルカゴンシグナルの抑制作用(Miller RA, 2013年Nature)、糖吸収抑制作用・GLP-1放出増加作用(1)などがあり、さらに抗癌(Birsoy K, 2014年Nature、2015ADAシンポジウム)・動脈硬化(Vasamsetti SB, 2015年6月Diabetes)作用についても報告があります。
メトホルミンの由来はフレンチライラックですが、すでに中世治療薬として使われたそうです。日常臨牀で最も使用する薬なので大変興味があります。

おおはしクリニック*トマトピザ(50g炭水化物 9gたんぱく質 4g脂質)とそれにチーズを加えたピザ(50g炭水化物 36gたんぱく質 44g脂質)を1型糖尿病被験者に食べてもらいインスリンポンプを用いて、連続血糖モニター上食後0~2時間、4時間、6時間の血糖を目標範囲内にコントロールする方法。結果;70%のインスリン増量(例えば通常のカーボカウント法計算では10単位のところ17単位)要し、デュアルウェイブ法で3:7(上記例では約5単位を食事開始時に、約12単位を2.5時間かけて注入)がフィットした。

ポンプを使用しない通常のインスリン療法の場合40g以上の脂質を含む食事では①超速効型インスリンを通常量食直前に、およびその30~35%相当量を食後1時間経過後に追加する方法、②レギュラーインスリンへの変更する方法(超速効型併用も可)が提案されています(2)。たんぱく質は40g以上かつ炭水化物30g以上の場合通常量の15~20%増量が提案されています(2)。また高グリセミックインデックス食では食事開始20分前のインスリン注射も提案されています(2)。しかし脂質は炭水化物のようにインスリン量と用量関係があるか否か、脂質種類による差、個人差、日による差の問題など検討課題がまだ残されています(2)。

 

参考文献
  1. Ferrannini E: The Target of Metformin in Type2 Diabetes. New Engl J Med 371: 1547-1548, October 16 2014
  2. Bell KJら: 1型糖尿病において脂質、タンパク質、グリセミックインデックスの食後血糖コントロールへのインパクト:連続血糖モニター時代における糖尿病治療強化への意義. Diabetes Care 38: 1008-1015, June 2015
2015年6月

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