今月の糖尿病ニュース

2015年3月の糖尿病ニュース

SGLT(Na+/グルコーストランスポーター)とGLP-1

今月のアメリカ糖尿病協会誌Diabetes Careには、SGLT2阻害剤(昨年発売開始になった糖尿病治療薬)関連の臨床論文が12本掲載されました。DPP4阻害剤との比較、DPP4阻害剤との組み合わせ効果、降圧効果、そして今回採りあげるSGLT1/2二重阻害剤関連の論文(1)があり興味深く読みました。選択的SGLT2阻害剤開発の歴史においてSGLT1を同時に阻害するフロリジンが下痢などの副作用があることから、SGLT1阻害薬は治療薬として適さないとされ、現在SGLT2選択性重視が一般的だからです。(1)によるとSGLT1/2二重阻害剤には尿糖の排泄以外の機序による血糖降下作用が想定され、Diabetes2月号SGLT1の新論文:糖が腸管からGLP-1分泌を促す過程におけるSGLT1の重要な役割、も関連論文として採りあげます(2)。

おおはしクリニックSGLTは1987年クローニングされ、そのうちのひとつSGLT1は1991年にグルコースとガラクトースを輸送し小腸からの糖取り込みを担うものとして分子同定され、のちに腎近位直尿細管SGLTはSGLT1だと明らかになりました(3)。

腸管細胞糖取り込み・GLP-1分泌機構にSGLT1が関係することは2000年頃にはわかっていたそうですが、今までの培養細胞を用いた実験系では管腔側と側底側が区別できない、即ち腸管由来糖と隣接細胞および循環血液由来糖の作用を区別できない欠点がありました。そのためSGLT1と(腸管細胞における別の糖輸送体)GLUT2の役割比較等は困難でした。 今回の研究は十二指腸~上部小腸をそのまま摘出し灌流しながら自然の解剖的整合性を温存したまま生理的条件で解析が行われました(2)。

今回の実験により腸管内糖のL細胞への取り込みにはSGLT1が主役で、GLUT2は脇役であることがわかりました。それぞれの阻害剤を腸管内に投与した結果SGLT1阻害剤フロリジン投与に比しGLUT2阻害剤フロレチンの影響が少なかったのです。またSGLT1が関与する以上、腸管内にNa+が存在しないと糖が取り込まれずGLP-1分泌促進作用は消失しました。一方GLUT2は管腔側では脇役ですが側底側にも存在し血中や隣接細胞からの糖取り込みに関与すると考えられました。

従来、発生学的見地等から腸管L細胞と膵β細胞は対比されることが多いのですが、膵β細胞におけるインスリン分泌に重要な役割を果たすグルコキナーゼとKATPチャンネルは、 L細胞において存在は確認されているもののどの程度機能しているか不明でした。グルコキナーゼとKATPチャンネルの遺伝多型ではインクレチン(GLP-1)血中濃度は低下していないことや、(KATPチャンネルに作用する)SU剤がL細胞からGLP-1分泌促進しないことなどが理由です。しかし今回の実験では高用量のSU剤を投与した結果、GLP-1分泌促進反応が認められました。また降圧剤ニフェジピン投与で(Ca2+細胞内流入阻害により)それをブロックしました。
以上よりL細胞の糖によるGLP-1反応においてSGLT1がより優位であるものの、KATPチャンネルの役割も認められました。

従来膵β細胞と腸管L細胞は同じ糖感知機構をもつかどうか議論の的でしたが、今回の実験結果によると生体は臓器によって糖感知機構を変えるようです。 β細胞はグルコキナーゼを、L細胞はSGLT1を第一の糖感知装置としました。

さて冒頭(1)でSGLT1阻害剤は耐糖能を改善すると述べましたが、なぜ糖感知機構をブロックしてGLP-1分泌量を減らすことが耐糖能改善に結びつくのか? 一見矛盾するようですが、似た現象として肥満手術である胃バイパス術が挙げられています。術後早期に体重が減る前から耐糖能が改善することがわかっていますが、上部をバイパスして下部小腸から糖が大量に吸収されGLP-1分泌が増えるからだと想定されています(4)。SGLT1阻害剤内服にてなぜ上部小腸L細胞だけで糖吸収が阻害されるかは説明されていないのでややすっきりしませんが。

他、過去の細胞実験では認められた人工甘味料に対して、今回の実験 (2)でGLP-1分泌反応は見られず、L細胞に甘味覚受容体が存在するか確認できませんでした。今後の検討課題です。
また全身にあるSGLT1阻害の影響も気になるところです。

参考文献
  1. Rosenstock Jら: メトホルミン単独治療2型糖尿病患者におけるSGLT1/SGLT2二重阻害剤LX4211によるA1cに対する尿糖量(から想定される)以上の用量設定効果. Diabetes Care 38: 431-138, March 2015
  2. Kuhre REら:ラット灌流小腸からの糖刺激によるGLP-1分泌の分子機構. Diabetes 64: 370-382, February 2015
  3. 金井好克:SGLT2阻害薬―薬理学の視点から―. Diabetes Journal 42: 138-146, No.4 2014
  4. Gribble FM:甘さの吸収(おもしろい?)感覚An Absorbing Sense of Sweetness. Diabetes 64: 338-340, February 2015
2015年3月

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