今月の糖尿病ニュース

2015年2月の糖尿病ニュース

肥満と2型糖尿病におけるマイクロバイオーム(人体にすむ微生物相≒腸内細菌)の役割への洞察

2月22日NHKスペシャル「解明!腸内フローラ」ご覧になりましたか? 肥満、肌の張り、癌、原因不明の難病、性格などに腸内細菌が関与しており、正常人の便を注入すると難病患者が治癒すること、性格の異なるラットの便を交換注入すると性格が接近することなど衝撃的な事例も紹介されました。「美人は快食快便のはず」という説もなるほどです。国内でもがんセンター有明病院が腸内細菌検査を基本検査に組み入れ、大学病院は便移植(FMT)の治験を始めるなど日常診療に登場する日も遠くないようです。

Science誌も2010年「この10年間の科学10大成果」の一つとするなど非常に注目される分野ですが、背景には培養法とは異なる、腸内細菌の新しい分子生物学的高処理分析法が大きく寄与しているそうです(1)。

番組では食物繊維が腸内細菌のえさとなり、腸内細菌から生じた短鎖脂肪酸SCFA(酪酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩など)が脂肪酸を脂肪でなく筋組織に運び肥満を防ぐと解説していましたが、病態生理について (1)に詳しく述べられています。

腸内細菌(バクテロイデスは以下の働きを促進し、ファーミキューテスは促進しない)→食物繊維の発酵→短鎖脂肪酸SCFA酪酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩)

 (SCFAの代表)酪酸の作用機序仮説

  1. 培養細胞にてヒストンデセチラーゼ阻害→PGC-1α↑→ミトコンドリア機能↑・脂肪酸化↑。筋のインスリン感受性↑脂肪酸化↑、脂肪組織のエンドトキシン化合物↓炎症↓、肝脂肪合成↓に関与
  2. 腸管内分泌細胞上G蛋白質共役受容体(GPR41 GPR43)に結合→PYY↑→腸管通過時間短縮、食物からのエネルギー吸収↑
  3. 腸管整合性を維持しエンドトキシン血症(侵入)を防ぐ
  4. 腸糖新生↑→門脈感知→脳へのシグナル→糖代謝・食事摂取状況改善
  5. 腸管セロトニン↑→視床下部セロトニン輸送体↑→満腹感↑
  6. 腸管上皮エネルギー↑→炎症性腸疾患↓

以下、広告などでお馴染みの話かもしれませんが、(1)より合わせてご紹介します。 減量手術であるRYGB(ルーワイ胃バイパス術)は体重減少効果が表れる前にインスリン抵抗性解除効果が出るが、腸内細菌変化による機序が想定される。

プレバイオティックスとはイヌリン、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、ラクツロースなど不消化性発酵性食物繊維含有食品である。 炭水化物発酵細菌であるビフィズス菌、乳酸菌はプレバイオティックス治療にて増加する。高脂肪食はエンドトキシン血症を起こし乳酸菌の減少とLPS含有グラム陰性桿菌増加を伴うが、マウスではフラクトオリゴ糖投与にてこれらの病態が改善、耐糖能が改善したという報告あり。
プロバイオティックスとはビフィズス菌、乳酸菌などの生菌含有サプリメントであるが、上記と同様の効果がマウスで認められた。
しかし人では二重盲検無作為コントロール臨床試験が必要である。

注目すべきは抗生物質が肥満の原因になっている可能性である。バンコマイシンはそのリスクが高く、アモキシリンは低い。
短期間でも抗生物質は腸内細菌の多様性、組み合わせに大きな影響を与える。
幼少期の抗生物質は肥満につながる可能性がある。
以上の点からも抗生物質の乱用は慎むべきである。

食習慣の変更は腸内細菌の正常化にもっとも簡単な方法である。脂肪制限または炭水化物制限によってカロリー制限するとバクテロイデスが増加、ファーミキューテスが減少、カロリー制限は腸内細菌遺伝子を豊富にして全身の炎症を押さえる。一番多い細菌集団によって腸タイプを決めるとすると、食習慣によってタイプが決まる。例えばタンパク質豊富な食事はバクテロイデス、繊維豊富な食事はプレボテラである。腸タイプは10日ほどでは変化しないが、細菌構成は24時間で変わるので採便条件は一定にする必要がある

数年前アメリカ糖尿病学会参加報告でも腸内細菌について書きましたが、今回Diabetes Care誌にReviewが出たので再度とりあげました。東京マラソン、ランニング日和でしたね。

参考文献
  1. Hartstra AVら: Insights Into the Role of the Microbiome in Obesity and Type2 Diabetes. Diabetes Care 38: 159-165, January 2015
2015年2月

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