今月の糖尿病ニュース

2014年11月の糖尿病ニュース

糖尿病性網膜症;細小血管障害以外の成因

糖尿病性網膜症は高血糖による細小血管障害の代表であり、血管の閉塞・出血等の眼底所見がなければ「網膜症なし」と判定されます。

しかし網膜はもともと血管組織ではなく網膜神経、グリア細胞、血管が絡みあった機能的神経血管組織であり、近年糖尿病性網膜症において神経変性が細小血管障害に先行するという報告も見られます (1)(2)。

今回初期または発症前糖尿病性網膜症の視力・視野を時間経過的に調べ、眼底所見(細小血管障害)と対比した興味深い論文(2)が発表されたので要旨をまとめてみます。

スウェーデンで2006年から始まった研究で、1型・2型糖尿病患者計81名(最終74名、平均年令57才、糖尿病歴13年、HbA1c7.6%、インスリン使用者48名、血糖降下剤未使用者9名(終了時3名)、血圧133/78、35名網膜症なし、網膜症光凝固術既往者および緑内障患者除外)を前向きに6~12ヶ月間隔で平均4年間フォローし、ハンフリー(静的視野)分析装置による標準自動視野検査(SAP)、視力検査(ETDRSチャート)、眼底検査、HbA1c・血圧測定を行いました。いずれの検査もクリニックで可能なこと、またキーポイントの視野変化分析はすでに緑内障早期発見の面では有用性が報告された方法で感度がよいことが特徴です。

結果;16人(1型2/12 、2型14/62)に視野悪化。視野悪化の部位別差なし。
20人(1型2/12 、2型18/62)に視力悪化。うち2名は黄斑浮腫、白内障。18名は原因不明。

視力悪化と視野悪化の相関は乏しく両者が見られたのは6人のみ。 「網膜症」(細小血管障害)の悪化は2名、改善は4名、いずれも微小動脈瘤の変化のみ。
他68名は変化なし。
「網膜症」(細小血管障害)の変化と視野変化に相関なし。
HbA1c、糖尿病罹患年数は視野変化と相関なし。

考察;細小血管障害がなくても視野悪化が見られることから、神経変性に基づく神経機能不全が早期糖尿病網膜症の特徴のひとつと考えられる。現状の網膜細小血管障害診断感度が悪い可能性もあるが。

問題点;視野異常が細小血管障害に先行するか否か不明。視力障害の原因不明。HbA1c(血糖コントロール)と視野障害の関連不明。

結語;この研究で用いた視野検査法は糖尿病性網膜症の早期発見に有用で、神経保護を含む糖尿病性網膜疾患の治療効果指標としても期待される。

日常臨床へのフィードバックとしては、糖尿病網膜症なしと診断されても網膜に何らかの(神経変性に関する)潜在的異常は存在する可能性を念頭に置くことでしょう。ルーチンに視野検査を行う是非については眼科医と病診・診診連携の際討論テーマとなるでしょう。さらなる糖尿病性網膜症の成因が解明され、早期診断・治療法の確立が期待されます。


#糖尿病は網膜の神経細胞・グリア細胞機能不全、血管細胞機能不全を引き起こすが時間的関係、相互因果関係はほとんどわかっていない;文献(3)より改編
参考文献
  1. Antonetti DAら: 糖尿病性網膜症 高血糖性細小血管障害以外の展望. Diabetes 55: 2401-2411, September 2006
  2. Hellgren K-Jら: 早期糖尿病性網膜機能不全の時間経過:長期前向き臨床研究の結果. Diabetes 63: 3104-3111, September 2014
  3. Jackson GRら: 視野が糖尿病性網膜症の進展理解を改善する. Diabetes 63: 2909-2910, September 2014

天皇陛下もおでかけになった大古事記展です。
2014年11月

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