今月の糖尿病ニュース

2014年5月の糖尿病ニュース

第57回日本糖尿病学会年次学術集会参加報告;
高血糖・インスリン抵抗性時のβ細胞量調節機構、β細胞再生
おおはしクリニック

今月22~24日、学会にはもったいないような天候のもと地元大阪で開催されました。1型糖尿病御専門の大阪医大花房教授が会長をされたこともあり、今回は膵β細胞、膵島関連の話題を中心にフォローしたので関連文献紹介を加え報告します。

β細胞脱分化とは

初日綿田先生のイブニングセミナー「膵β細胞の増殖と死と分化と脱分化」において、高血糖を放置すると「β細胞が死んでしまう」と言われているが「β細胞が脱分化する」という現象も同時に起こっていることを聞き、あらためて発想の転換を迫られる気がしました。しかし脱分化現象にはまだまだあいまいな点も多く、例えばラット膵切除後糖毒性モデルのβ細胞はインスリンを持たずNeurogenin3等の発現が見られるなど分化と逆方向の変化がみられるものの、それが多能性前駆細胞までもどるのか、ヒトでもマウスのようにβ細胞脱分化によりα細胞化がおこるかなど、重要な点が研究課題として残されています (1)。

そうした中、ファーター乳頭部癌で膵頭十二指腸切除術をうける非糖尿病患者18名に術前術後インスリン分泌能・抵抗性等の詳細な評価を行い、手術時得られた膵標本の免疫組織化学分析を行った興味深いデータが発表されました(2)。術前インスリン抵抗性の強いグループにおいてのみ術後HbA1c上昇など糖尿病発症がみられ、術後グルカゴン分泌が有意に増加しました。また膵組織においてインスリン抵抗性グループでは;膵島領域の拡大、β細胞の肥大なく数増加、グルカゴン(α細胞)領域比率の増大、膵管細胞からβ細胞の新生、β細胞/α細胞比の減少、グルカゴン・インスリン両者陽性細胞比の増加がみられました。なおβ細胞アポトーシス・複製所見はほとんどありませんでした。以上よりインスリン抵抗性に対するβ細胞の代償反応は膵管細胞からβ細胞の新生、およびαからβへの分化転換によるものと考察しています。ただしβ細胞の脱分化が起こっているか? α細胞増加はβ細胞脱分化からか? などは推測の域を出ず、α細胞の絶対数が少ないことやインスリン抵抗性グループでもグルカゴン分泌は増えていないことからα細胞の実験結果解釈には注意すべきとしています(3)。

以上より現時点で臨床医として高血糖はもちろんのこと、インスリン抵抗性状態においてもβ細胞・膵島には細胞死以外にも著明な変化が起きていることを想定し対応することが必要と考えられます。

β細胞再生;内因性

2日目は参考文献(1)の著者Bonner-Weir 先生の特別講演です。 膵管上皮細胞がβ細胞新生のもとになる前駆細胞に逆行(regress)する仮説を、膵部分切除後ラット実験データをもとに話されました。
3日目はシンポジウム「再生医療が開く明日への希望」でGittes先生によるα細胞からβ細胞への転化について聞きました。

β細胞再生;外因性(ES、iPS細胞)

同シンポジウムではiPS細胞からのβ細胞再生についても聞ける贅沢な内容でした。難解でしたがグルコースに依存したインスリン分泌、3次元、酸素、発生学に忠実に、などがキーワードとして印象に残りました。もはや夢ではなく7年程で臨床実用化を目指しているそうです。

その他の話題としては今年秋ごろリアルタイム持続血糖モニターとインスリンポンプの連動システムが、遅れをとっていた日本でもいよいよ使用可能になりそうとのこと、楽しみです。

(文献3の図を文献1および学会抄録を参考に改編)

参考文献
  1. Bonner-Weir Sら: β細胞の脱分化は糖尿病において重要だが、その意味は?. Islets 5(5): 233-237, September-December, 2013
  2. Mezza Tら: インスリン抵抗性は非糖尿病のヒトにおいて膵島の形態を変化させる. Diabetes 63: 994-1007, March 2014
  3. Montanya E: インスリン抵抗性の代償:β細胞の問題のみにあらず?. Diabetes 63: 832-834, March 2014
2014年5月

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