今月の糖尿病ニュース

2014年4月の糖尿病ニュース

「アクトスと膀胱がん」
おおはしクリニック

今月は寝屋川地区の勉強会でアクトスが話題になったのですが、血糖コントロールのみならず認知症、脂肪肝、β細胞保護等への効果もデータが集積しつつあるようです。しかし一方膀胱がんの副作用可能性も指摘され、患者さんの問い合わせも増えています。そこで今後クリニックでアクトスの位置づけをどうするか考えてみました。

まず一般的にアクトスはメトホルミン禁忌例の単剤治療薬として、メトホルミン無効例の併用薬として、インスリン抵抗性改善目的3剤目以降治療薬として、有用な薬とされています(1)が、ユニークな点はDeFronzoらが2013年アメリカ糖尿病学会学術会議(Abstract72-OR)で発表した2型糖尿病の病態生理に基づく治療(2)、日本で進行中のJDOIT3試験など、従来困難とされたβ細胞保護や大血管障害予防を目標に使われていることだと思います。

そうした中、膀胱がん問題によってフランス、ドイツの使用制限に続き、インド政府が2013年6月突然アクトスの使用を禁止したため反論が展開されています(2)。PROactive試験のフォローアップでは膀胱がんのリスクは全く増加していなかったこと、インドやアジアでは膀胱がんは10大がんには入っていないこと、糖尿病自体が膀胱がん・その他がんのリスクファクターとされていること、台湾ではアクトスの副作用報告として膀胱がんは一例もないことなどです。

解析方法についても、これまでの研究は疫学データや後ろ向き研究に基づくものが大部分のため、結論を導くためには今後多くのランダム化された前向き試験が必要としていますが、現時点ではアクトスと膀胱がんに統計的有意な関係はないとしています。

おおはしクリニック

そしてアクトスの中止によりインド人はより高価で、臨床経験の少ない、もしかするとより大きな副作用のある薬を使っていかねばならなくなる、同様の事象は数多くありなぜアクトスだけ中止になるか不公平である、このような傾向が続けば治療薬は皆無になる、従ってブラックボックス警告が妥当な線だろうと結んでいます。

もし本当にアクトスが膀胱がんのリスクを増大するとしたらどうすべきでしょう。膀胱がんの既往や治療中の人に投与しないことは当然として、他の膀胱がんリスクファクターを持つ人を避けることが考えられます。喫煙が有名ですが、尿路結石や尿路感染についても報告があります(4)。 逆にアクトスのメリットが大きい人を選んで処方するのも一案です。アクトスは肝臓癌や大腸がんのリスクを下げる(1)と言われています。また循環器疾患のリスクの高い人にも有用かもしれません(2)(3)。

寝屋川市人口が25万とすると糖尿病の人は約2万人、アクトス内服者は2000人程度と推計されますが、(1)(3)(4)に基づきアクトス中止のシミュレーションを行うと膀胱がん発症は1年に0.5人減るものの、肝癌・大腸癌は1人以上増え、さらに循環器疾患も増加(10人以上)することになります。

まとめとして、アクトスは漫然と使用せず、明確な目標を定め、体液貯留、骨粗鬆症、黄斑浮腫、そして血尿等に気をつけながら使用する薬剤と考えられます。

参考文献
  1. Schernthaner Gら: 我々は2型糖尿病の治療にまだピオグリタゾンを必要とするか?2013年時点でのリスクと利益評論. Diabetes Care 36 sup2: S155-S161, August 2013
  2. Sadikot SMら: インドはピオグリタゾンを中止する:それは正しいか?. Diabetes & Metabolic Syndrome: Clinical Research & Reviews 8: 53-56, January-March 2014
  3. Erdmann Eら: PROactive試験の観察的フォローアップ:6年目の更新. Diabetes, Obesity, and Metabolism 16: 63-74, January 2014
  4. 4) Tseng CH: 糖尿病と膀胱がんのリスク:台湾国家健康保険データベースを用いた研究. Diabetologia 54: 2009-2015, 2011
2014年4月

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