2014年3月の糖尿病ニュース
「薬理遺伝学と個別化医療」
糖尿病の薬物療法は代謝異常の程度のみならず、年齢や肥満の程度、慢性合併症の程度、肝・腎機能、ならびにインスリン分泌能やインスリン抵抗性の程度を評価して行う(日本糖尿病学会編 糖尿病治療ガイド2012-2013)とされています。しかしそれらのみで判断できない症例に時々出会います。例えばSU剤は低血糖、肥満を起こしやすく二次無効になりやすいと言われますが、反面単剤治療でHbA1c6%未満が5年以上低血糖・体重増加なく続くような症例もあり、上記背景因子のみでは説明困難です。食事運動療法の遵守度も様々です。
このような薬の効果や副作用が人によって異なるという現象は、すでに多くの人々に理解されているところですが、最近10年ほどの間に遺伝子解析技術が飛躍的に進歩した結果、この個人差には薬剤の血中濃度に影響を与える薬物代謝酵素や薬剤排出ポンプの遺伝子多型(先天的な遺伝子配列の相違)、あるいは薬剤標的分子における遺伝子多型の関与が明らかにされています。そしてこれらの成果は薬理遺伝学というあらたな学問分野を誕生させました(2)。遺伝子を調べることにより患者の体質に合わせた投薬ができれば、最近クローズアップされている個別化医療にも大きな武器となります(1)。
SU剤と薬理遺伝学
SU剤に影響を与える遺伝子多型はKCNJ11(β細胞Kチャンネル遺伝子)、ABCC8(β細胞SU剤受容体遺伝子)、KCNQ1(Kチャンネル遺伝子)、TCF7L2(転写因子)、CYP2C9(SU剤代謝に関わる肝チトクロームP450酵素遺伝子)にみられ、SNP(スニップ 一塩基多型)の違いにより、二次無効までの期間、HbA1c低下、空腹時血糖低下、用量、低血糖になりやすさに差が見られると報告されています。また新生児糖尿病、インスリンよりSU剤が効果的な例の遺伝子多型も紹介されています(3)。近年新薬の登場が相次いでいますが、経済的な側面からはSU剤単剤治療のメリットは大きいので、有効かつ低血糖・二次無効になりにくいことが予測可能になれば福音です。
2型糖尿病の薬理遺伝学の現状
しかし最近の系統的総説(1)に採用された薬理遺伝学の論文は7279編中34のみ、しかも薬理遺伝学を主目的にしたランダム化対照比較試験は皆無、メタアナリシスは不能という状況で、質的にも量的にもまだ一歩を踏み出した段階といわれています。
参考文献
- Maruthur NMら: 2型糖尿病の薬理遺伝学:系統的総説. Diabetes Care 37: 876-886, March 2014
- 石川 和宏: 基本まるわかり!薬理遺伝学. 南山堂, 2012
- Semiz Sら: 薬理遺伝学と2型糖尿病の個別化治療. Biochemia Medica 23(2): 154-171, 2013
>>糖尿病ニュースバックナンバーはこちらから |