今月の糖尿病ニュース

2014年2月の糖尿病ニュース

「糖尿病腎症と慢性腎臓病2」
おおはしクリニック

先月に引き続き腎臓関連の話題です。先月のニュースをアップする前、1月10日に糖尿病腎症合同委員会が糖尿病性腎症病期分類の改訂を発表していました。解説などは未発表ですが、eGFR30未満を腎不全、30以上あれば尿アルブミン量によって1~3期に分類等、CKD分類を意識、かつシンプルになっているようです。

心腎連関について;

先月のニュースでCKDの予後は尿アルブミン(蛋白)量で決まることを述べましたが、蛋白尿を減らす治療が腎予後のみならず心大血管疾患予後も改善するのでしょうか?確かに薬剤介入によりRENAAL試験では最初の6ヶ月にアルブミン尿が50%低下した場合心大血管疾患発症が18%抑えられましたが、ONTARGET試験やALTITUDE試験では両者に乖離が見られました。このことから糖尿病患者においてアルブミン尿の発症メカニズム・心大血管疾患との関係が再考されるようになりました(1)。
このような問題は近年心腎連関(CRS)と呼ばれ、血管内皮障害(2)・炎症(3)が連関を介在する重要因子と考えられ、内皮障害因子ADMA、炎症性サイトカインIL-18はCRS予知因子・創薬の標的等として期待されています(2)(3)。 
最近の糖尿病学展望(1)によると、内皮・糸球体上皮細胞(podocyte=タコ足細胞)クロストークが注目されています。例えばpodocyteからVEGF-Aという因子が内皮細胞にある受容体に作用して糸球体成長発達に関与すること、逆に内皮細胞からActivated protein Cという因子がpodocyteにある受容体に作用してpodocyteのアポトーシスを防止・凝固や炎症を抑えることなどが紹介されています。

高血糖以外の腎リスクファクター

他に興味ある関連論文ですが、1型糖尿病患者において正常アルブミン尿時、高血糖以外に尿アルブミン増加・GFR低下のリスクファクターになるものとして、インスリン抵抗性がクローズアップされています(4)。また正常アルブミン尿時にもGFR低下は見られること、かつGFR低下のみられるものに尿アルブミン増加の確率が高く、尿酸・TNFR-1高値がリスクファクターになることが報告されています(5)。典型的な1型の糸球体病変は糸球体毛細血管基底膜の肥厚、メザンギウム領域の拡大、終末像として糸球体硬化病変ですが、インスリン抵抗性(=内臓脂肪?)→マクロファージ浸潤、アディポカイン生成→炎症→内皮・糸球体上皮細胞機能低下・アポトーシスという経路が想定されています。 またABCA-1障害によるpodocyte内コレステロール蓄積も新しい腎障害の原因ですが、米国ではNieman Pick病治療薬として認可されているCyclodextrinが有効と報告されています(6)。
腎臓病は、内皮・糸球体上皮・メザンギウムの3次元で考えることが重要と思いました。

参考文献
  1. Siddiqi FSら: 内皮・糸球体上皮細胞(podocyte)クロストーク;内皮機能不全とアルブミン尿間の失われた環(ミッシングリンク). Diabetes 62: 3647-3655, November 2013
  2. 上田誠二ら: 慢性腎臓病と各種疾患;心血管疾患(慢性腎臓病:最近の進歩). 日内会誌 101: 1272-1277, 2012
  3. 四方賢一;糖尿病性腎症と心腎連関;第46回糖尿病学の進歩ランチョンセミナー. DIABETES UPDATE 1: 45-48, 2012
  4. Bjornstad Pら: 早期糖尿病性腎症;1型糖尿病においてインスリン感受性低下による合併症. Diabetes Care 36: 3678-3683, November 2013
  5. Krolewski ASら: 早期進行性の腎機能低下は微量アルブミン尿の発症と顕性アルブミン尿への進展に先立つ. Diabetes Care 37: 226-234, January 2014
  6. 6) Merscher-Gomez Sら: Cyclodextrinは糖尿病性腎臓病においてpodocyteを護る. Diabetes 62: 3817-3827, November 2013
おおはしクリニック
1.基底膜 6.傍糸球体細胞
2. ボウマン嚢–壁側層 7. マクラデンサ
3. ボウマン嚢 – 臓側層 8. 平滑筋細胞
3a.ポドサイトからの足突起 9. 輸入細動脈
3b. ポドサイト(タコ足細胞) 10. 糸球体毛細血管
4. ボウマン腔 11. 輸出細動脈
5a. メザンギウム –糸球体内細胞  
5b. メザンギウム –糸球体外細胞  
2014年2月

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