今月の糖尿病ニュース

2013年10月の糖尿病ニュース

食後高血糖に対するインスリン療法とインクレチン療法の比較

インスリン療法、とくに基礎インスリン(主としてランタス、レベミル、トレシーバ)の1日1回打ち治療は利便性・効果に優れ、内服が効かなくなってから追加で開始するBOT療法のみならず、アメリカ糖尿病学会(ADA)/ヨーロッパ糖尿病学会(EASD)合同ステートメント上使用開始基準はSU剤等と同格なことから初期の段階で開始することも増えています。早期基礎インスリン治療について安全性はORIGIN試験により確認された(1)のでこれを後押しするものでしょう。しかし空腹時血糖を早期からかなり厳格にコントロールした時でさえもHbA1cは経時的に上昇した(つまり食後は上がったことが推察される)ことから、基礎インスリンのみで食後血糖を抑えられない場合次の一手を考える必要があります。

おおはしクリニック

Yki-Jarvinen 先生の論文はインスリン治療による体重増加の原因(2)などいつも興味深く読むのですが、今回「基礎インスリン(B)以外の、(超)速効型インスリン(P)や混合型インスリン(M)を使う根拠はあるか」という、いかにも議論を呼びそうなタイトルの総説(3)が出ていたので要点をまとめてみました。1.PまたはMによる治療は総じて使用インスリン量が多くBよりHbA1cを改善するが体重増加や低血糖が多い、2.PとMの成績は試験によりばらつきが大きい、3.経口剤(ほとんどSU剤かメトホルミン)を併用しないとB+経口剤に対するPまたはMのメリットは消失、4.「B+経口にて不十分→P追加またはM+経口への切り替え」をみた試験がほとんどない、5.多くの臨床試験はBの調節不足(ランタス体重1kgあたり0.48単位使用により低血糖なしに空腹時血糖100以下達成率22%のTreat to Target試験レベルに達していない)。
その結果、基礎インスリンの調節をもっと強化することとGLP-1受容体作動薬を併用することについて今後検討するよう提案しています。
最近発売になったリキスミアの評価にも繋がる指摘です。

また新たな基礎インスリン・DPP-4併用試験結果(4)も発表されましたが、DPP-4阻害薬(トラゼンタ)を追加してもHbA1cは改善するが低血糖の頻度は増えなかったことは特筆すべきことです。

最後に当クリニックのインスリン治療にDPP-4阻害剤を追加した症例を調べてみました。 基礎インスリン(±メトホルミン)に追加した症例(SU剤と入れ替えも含む)は6例でHbA1cは0.2、3.8、0.9、0.9、0.7、1.1%低下しました。強化療法または混合製剤に追加した症例も3例ありました。 血糖変動大でインスリン調節の難しい例に適応がある(5)とされていますがHbA1cは7.3→6.5、8.5→7.2、11.6→9.5(いずれもJDS)と効果良好でした。

参考文献
  1. Del Prato Sら: 2型糖尿病早期治療手段としてのインスリン: 古い疑問のORIGIN(始まり)か終わりか? Diabetes Care 36 supp2: S198-204, August 2013
  2. Makimattila S, Yki-Jarvinen Hら: インスリン治療中体重増加のおこる原因、メトホルミン有無別2型糖尿病での検討. Diabetologia 42: 406-412, 1999
  3. Yki-Jarvinen Hら: インスリン初回または使用歴のある2型糖尿病患者にインスリンミックス製剤または食前追加インスリン使用を支持する根拠はあるか? Diabetes Care 36 supp2: S205-211, August 2013
  4. Yki-Jarvinen Hら: 基礎インスリンを核とした治療法にてコントロール不十分な2型糖尿病患者にリナグリプチンを加える効果:52週以上、ランダム化二重盲検試験. Diabetes Care online September 23, 2013
  5. 鈴木大輔: DPP-4阻害薬活用マニュアル. 南江堂2013
2013年10月

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