今月の糖尿病ニュース

2013年9月の糖尿病ニュース

運動模倣薬 / メトホルミンと運動療法の組み合わせ
おおはしクリニック

明日はついにあまちゃん最終回です。 今月は日米欧糖尿病学会誌他最近の記事から運動、メトホルミンの話題をとりあげます。運動療法は糖脂質代謝の改善のみならず循環器・中枢神経・骨筋肉系への効果を介して糖尿病合併症の予防効果、健康寿命延長効果が期待されるなど2型糖尿病治療の核であることは言うまでもありません。しかしもともと運動不足(嫌い)の人に適用するにはモチベーションを上げる工夫、行動変容を促す工夫が大変重要で医療スタッフの力あるいは職場・社会の大きなバックアップを要し、さらにレジスタンス運動(筋トレ)などは的確な指導が不可欠とも言われ理想と現実のギャップを埋めるのは容易なことではありません (1)。そんな中ブラックボックスであった運動効果の分子メカニズムが明らかになるにつれ"運動模倣薬"登場が大いに期待され、とくにPGC-1αが注目されていること、さらにアディポネクチン/AdipoR1経路がより広く運動効果を模倣することなどが(2)で述べられています。模倣薬の候補は筋繊維組成・有酸素運動能改善効果をもつPPARδタンパク質を活性化する薬GW501516(グラクソスミスクライン)の他、PGC-1αの下流に位置するERRγが同様の効果があるとアメリカ糖尿病学会で報告されています(NarKar VA)。 難しい用語はともかく運動は血糖降下作用だけでない、いわば万能薬を飲むのと同じ価値があることを知ってもらうことになれば逆に一つの運動療法へのモチベーションになるかもしれません。

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メトホルミンは運動療法と並んで最も汎用される2型糖尿病治療法(5)で欧米では第一選択薬となっています。糖脂質代謝改善効果にとどまらず多のう胞性卵巣症候群に対する効果、発癌抑制・抗腫瘍効果、脂肪肝に対する効果など多面的効果があり、体重増加・低血糖がなく安価である(3)ことがその理由ですが、副作用も重症腎障害患者に対して禁忌である点などに注意すれば軽微なのも利点です。

そうなると運動療法とメトホルミンを組み合わせればさらに効果的かどうか是非知りたいところです。(4)(5)およびその他の研究結果から体重と血糖値に関しては組み合わせ効果が期待できるのですが、インスリン感受性と有酸素運動能に関しては何と1+1=1または<1の可能性があると分かりました。 おおはしクリニック その理由としてメトホルミンのミトコンドリア電子伝達系複合体I阻害作用(6)が運動効果を抑制する可能性が挙げられています。また血糖値は主に肝への治療効果、インスリン感受性と有酸素運動能は筋への治療効果によって決まることも重要な点です。 最近ビタミンB12不足から認知機能低下を来たす可能性があると報告がありました(7)。症例数が少なく糖尿病の治療状況もあいまいで真偽はわかりませんが今後の検討が必要です。

メトホルミンそのものだけで十分良い薬ですが分子作用機構の解明によりより効果的で副作用の少ない薬が作られる可能性はあります(6)。しかし臨床医としては境界型~軽症糖尿病患者に薬を処方する際、運動療法に熱心な人ならメトホルミンがベストかとうか、血中ビタミンB12を時々測った方がよいのかなど考えさせられます。

  1. Feo PDら: 運動療法は大半の2型糖尿病患者にとって治療の要か. Diabetes Care 36 supp2: S149-154, August 2013
  2. 岩部 真人ら: 特集 糖尿病発症における臓器の役割 3. 骨格筋. 糖尿病 56(7): 413-416, 2013
  3. 船山 崇ら: メトホルミンと脂質代謝. Diabetes Frontier 24 No.4: 418-422, 2013
  4. Malin SKら: 境界型糖尿病患者における運動療法とメトホルミンのインスリン感受性への個別及び併用効果. Diabetes Care 35: 149-154, 2012
  5. Boule NGら: メトホルミンは有酸素運動、レジスタンス運動または両者の血糖コントロール効果に影響を与えるか? Diabetologia online: 23 August 2013
  6. Rena Gら: メトホルミンの分子作用機構: 古いもしくは新しい洞察?  Diabetologia 56: 1898-1906, 2013
  7. Moore EM: 糖尿病患者において認知機能障害のリスク増大はメトホルミンと関連する. Diabetes Care online: September 5, 2013
おおはしクリニック
2013年9月

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