今月の糖尿病ニュース

2013年7月の糖尿病ニュース

体内時計(ADA学会参加報告2)

今月はアメリカ糖尿病学会参加報告続編です。脳内インスリン作用と腸内細菌について現在のところ臨床的には高脂肪食を避け運動を推奨しながら今後の研究発展を祈ることにし、時計遺伝子の話題をひとつ。

1972年(それ以前から存在は推測されていた)脳内視床下部視交叉上核SCNに体内時計が見つかり松果体と連携してメラトニン分泌を調節することは、朝日を浴びると夜間良眠できるメカニズムとして有名ですが、1997~1999年にかけて哺乳類で6種類の中心時計遺伝子が続々と見つかり研究は急速に発展します。2005年マウスにおいて時計遺伝子異常とメタボリック症候群との関係が報告されて以来、高血圧・糖尿病・骨粗鬆症(または骨過形成)・癌・老化などとの関係が続々と判明しています。ヒトにおいても毛根細胞による体内時計測定法などにより臨床研究の進歩が期待されます(1)(2)。しかし一方「23時過ぎの間食は体重増加の効果が最大です。時計遺伝子B-mal 1が摂取したエネルギーを脂肪として蓄積してしまうからです(1)」様情報は本屋さんに多数並ぶダイエット本の世界では既に常識のようです。

深夜の食事と並んで議論の多いのが朝食を摂るか否かです。立ち読みで調べたところダイエット本では最近朝食肯定派が主流のようです。その理由はわかりませんが、腹時計(1)理論と無縁ではないと思われます。腹時計は脳の親時計(中枢時計)に対して肝臓や腸にある子時計(末梢時計)、または「第3(SCN以外に親時計を持つから)の時計」(1)とされています。親と子時計の関係はサッカーの監督と選手の関係に例えられています(2)。普段選手は監督の指示に従うものの時には自分の判断でプレーすることが似ているからです。朝食をとると末梢体内時計がリセット(朝日を浴びるのと類似)されますがかなり強力なものだそうです。ちなみに最近内外で朝食とメタボリック症候群/2型糖尿病の発症について報告があり、原則的に毎日規則正しく朝食をとるのはよいことが示されています(3)(4)。しかし夜間交代勤務の人はどうしたらよいか悩ましい問題です。

前置きが長くなりましたが、今回学会で時計遺伝子関連シンポジウムは少なくとも3つありました。そのうちLeonard P Guarente先生による「代謝主調節因子としてのサーチュイン」ではSIRT1(サーチュインのひとつ)は肝とSCNの体内時計に作用すること、SCNでSIRT1は年令とともに減少すること、SIRT1は体内時計を介して寿命を延ばす可能性があることが述べられました。なおSIRT1の概日時計遺伝子発現調節機構は奈良大学中畑泰治博士によるものが有名(1)とのことです。サーチュインと言えばカロリー制限といわれるほど有名ですがカロリー制限は生殖能力、感染抵抗力、気分行動、筋骨量維持にマイナスの可能性があり健康・長寿・癌予防へのメリットもヒトではまだ確定できないようです(5)。

網膜症の成因や膵β細胞のインスリン分泌も体内時計が関係しているそうで難解ですが興味ある話です(6)(7)。

参考文献
  1. 大塚邦明: 体内時計の謎に迫る. 知りたいサイエンス 科学評論社, 2012
  2. 上田泰己: 時計遺伝子の正体. NHKサイエンスZERO NHK出版, 2011
  3. Odegaard AOら: 朝食の頻度と代謝疾患発症リスク. Diabetes Care online June 17, 2013
  4. 和田高士: 朝食を食べたり食べなかったりという不規則な生活習慣がメタボリック症候群の発症に影響している. 第110回内科学会総会・講演会, 4月14日 東京2013
  5. Libert Sら: カロリー制限の代謝および神経精神系への効果.  Annu Rev Physiol 75: 669-684, 2013
  6. Bhatwadekar ADら: 時計遺伝子Per2変異は網膜と骨髄の糖尿病性血管表現型を要約している. Diabetes 62: 273-282, 2013
  7. Qian Jら: 膵島概日時計・機能へ夜間光照射の結果. Diabetes Care online June 17, 2013
2013年6月

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