今月の糖尿病ニュース

2013年5月の糖尿病ニュース

Pro-BNP(JDS学会参加報告)

今年は晴天が多く例年以上に新緑眩い5月でしたが早くも梅雨に入りました。 熊本で開催された日本糖尿病学会年次学術総会(JDS)に18日土曜日参加しました。午前中はデューティーでもある専門医向け教育講演を聴講、小児・緩徐進行性・劇症1型糖尿病についてアップデートしました。5才以下にはとくにインスリンポンプが有用なこと、抗GAD抗体価10未満(偽陽性)の緩徐進行性でも45才以下かつ他の膵・甲状腺自己抗体陽性の場合インスリン分泌不全が進行しやすいこと、重症薬疹と劇症の関連性・・など内容盛りだくさんでした。午後からのシンポジウム「グルカゴンルネッサンス」が今回私の目玉でしたが、ランチョンセミナー「心腎連関マーカーNT‐proBNP(N)の使い方」も日常臨床にインパクトがありました。

おおはしクリニック

Nは従来慢性心不全治療ガイドライン上心機能マーカーとして有名(例えば125以上;経過観察群、400以上;心不全の疑い群)ですが、無症候性心筋虚血・心大血管病死亡率・慢性腎不全悪化の予測因子としてのデータが、今回関東労災病院浜野久美子先生の自験例を中心に紹介されました。そのうち2012年JDSで発表されたものですが2型糖尿病患者157名においてeGFR30%以上の低下(腎イベント)がN120 pg/ml以上群で有意に増加、また大血管障害のないeGFR60以上(CKDステージ1、2)79名5年間の大血管障害+総死亡イベント発生がN153pg/ml以上で有意に高値というデータがありました。腎機能が悪いとNが高いことはよく知られていますが、逆にNにより尿中アルブミン、血中CRP値などと同様心腎リスクを評価しうるという点が興味深いところです。

セミナーでは最近イタリアから出た前向き研究(1)も紹介されました。Nのカットオフ値を91に設定すると心血管疾患の既往のない患者層において年齢、脂質、尿アルブミン、CRPなど多数リスクファクターで補正しても41未満の群と比較して3.44倍の心血管死亡率になることなどから、Nが既に確立されたマーカーである尿中アルブミンやCRPより強力な予測因子になりうるとしています。
おおはしクリニック また同グループはEURODIAB研究の一部507名の1型糖尿病患者をある断面で糖尿病合併症有無別に分け比較しました(2)。合併症ある群の平均年齢は41.5才、糖尿病罹患歴は24年、Nは73.3pg/mlで、合併症ない群ではそれぞれ35.6才、15年、42.31pg/mlでした。N値が26.4以上か以下で比較するとすべての合併症リスク比は2.56倍でした。但しTNFαで補正すると差がなくなることからNとTNFα間に病因論的に共通するものが推測されています。

ちなみに当クリニックでも60才以上またはCKD合併の1型2型糖尿病患者さんを中心にNを定期チェック(ロシュ・ダイアグノスティックス社電気化学発光免疫測定法)しているので調べてみました。N値の平均(複数回測定者は最新の値)は男性(106名、平均68才)97±141pg/ml、女性(85名、平均69才)91±101pg/mlでした。 そのうちデータ欠損のない101名(男女混合)の断面調査結果を(1)のカットオフ値を参考に表、図にまとめました。なお心不全徴候のある心房細動合併者、ペースメーカー植え込み者計5名は除外しました。

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Nは年齢、eGFRと弱い相関、逆相関を認めました。(2)では他の糖尿病合併症に比べ網膜症はNとの相関が弱く、むしろN26.46~45.08では45.09~84.71より網膜症が多い結果でしたが当クリニックではN91以上で多い傾向となりました。またNとPWV(脈波伝搬速度)間に弱い相関を認めましたが、(2)では関節リューマチの治療によりTNFαが下がり、それに伴ってN、PWVが下がったというPetersらの研究を紹介しています。

今後はNを心不全マーカーとしてのみならず様々な角度から見るべきと思われます。

参考文献
  1. 1. Bruno Gら: 高齢2型糖尿病患者においてNT‐proBNPはCRPと尿中アルブミンより心血管死のより強力な予測因子である: カサレ-モンフェラト住民研究. Diabetes Care online April 5, 2013
  2. 2. Gruden Gら: NT‐proBNPはEURODIAB前向き合併症研究において糖尿病合併症と関連する: TNFαの役割. Diabetes Care 35: 1931-1936, 2012
2013年5月

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