今月の糖尿病ニュース

2013年4月の糖尿病ニュース

人口膵

桜の早咲き傾向と爆弾低気圧により花見準備の難しい年でした。
今月は1型糖尿病のインスリン調節についてDiabetes Care誌2013年4月号から2題選びました。最近は炭水化物の摂取量に応じてインスリン量を調節する応用カーボカウント法が一般的になりましたが、脂質摂取に関してはインスリン感受性を低下させる、肝糖産生を高める、胃の運動を低下させ糖吸収を遅らせることなどがわかっていても、1型インスリン治療への具体的影響についてはあまり調べられていません。
今回ジョスリン糖尿病センターのグループは7人の1型糖尿病患者;平均年令55才、糖尿病歴42年 (!) 、HbA1c7.2%、BMI26.3、1日使用インスリン0.5単位/kg に対して1日当たり平均1995 (朝688昼676夕630) kcal、脂質14%の基礎食(低脂質食LF)を丸2日間摂ってもらい、そのうち1回の夕食のみ50g(450kcal)の脂質を加え高脂質食HFとし(結局2日間の平均は2220kcal/日=理論上の最適カロリー、になるよう設定)、血糖を携帯型人口膵(Closed Loop)でコントロールしました (1) 。結果は夕食に要したインスリンはLFで9.0、HFで12.6単位でした。その結果血中インスリン濃度は食後5~10時間の間有意に高くなりました(9345 vs 7215μU/ml・分)。 それにも拘わらずHF摂取時の血糖値はLFに比し有意に高くなりました(血糖値120以上時積値16967 vs 8350 mg/dl・分)。

Closed Loopでない通常のインスリンポンプ使用時、脂質とタンパク質対応に関しては経験的につくられた方法(2)があります。 脂質とタンパク質あわせて100kcalを1PFUと呼び炭水化物10gに換算し(インスリン・カーボ比に基づき)インスリン量を決定し、1PFUなら3時間 2PFUなら4時間 3PFUなら5時間 PFU>3なら8時間かけ一定量注入する(Square-Wave boluses SWB)方法です。 
もし上記研究に適用したと仮定すると50gの脂質追加分に対して、インスリン増量は4.5×(インスリン・カーボ比)単位を8時間かけてSWB注入することになり、あくまで被検者間平均値で考えれば大きな問題はないかもしれません。しかし実際の増量分は被検者間で-17~108%と著明な個人差がみられ、それはインスリン・カーボ比とは相関がなかった(1日使用インスリン総量と相関は見られた)(1)ことからやはり実際の臨床では一人一人の患者さんに手作業での修正が求められることになります。なおインスリン・カーボ比(インスリン感受性)以外に個人差の背景になりうるものとしてグルカゴン、インクレチン、胃排出能が推測されています(1)。
以上まとめると①脂質も1型糖尿病インスリン治療において考慮すべきである②経験則(2)を適用するならインスリン・カーボ比以外に個人個人の特徴も加味する③今回Closed Loopは食後とくに高脂質食後には十分血糖がコントロールできなかった、です。

おおはしクリニックClosed Loopとはリアルタイム持続血糖モニター(CGM)とインスリンポンプを連動させ、主に血糖値と血糖変化速度からコンピューターアルゴリズムによりインスリン注入量を決め血糖コントロールを行うシステムですが、センサーも注入カテーテルも皮下組織中にあるため急速な時間的変化に弱点があります。従って食事時のインスリン注入は全自動で行うのは困難で通常の計算法により別個に追加投与したり、(1)の研究のように1~3単位を事前に補助的に追加投与したりする必要があります。(3)の研究でClosed Loopは期待通り夜間の低血糖防止には非常に効果的でしたが、昼間には低血糖9事例(12人が各々18時~翌々日の6時まで36時間Closed Loop装着下)が報告されています。食後2.5時間以内に4回、運動後に5回でした。追加インスリンなしでおやつを食べたためポンプインスリン注入量が増えた結果、また予定外に運動したためポンプインスリン注入減量停止が遅れ組織にインスリンが残存していた結果低血糖をおこしたもので完全自動化の難しさと、手動の調節またはシステムに行動の予告が必要なことを示しています。ほかClosed Loop下ではインスリン・カーボ比を実際より大きく見積もりがちで食後低血糖がおきることも指摘されています。

残念ながら日本ではClosed Loopはまだ日常診療に使用されていませんが、通常の1型糖尿病インスリン療法にも参考になるお話です。

参考文献
  1. Wolpert HAら: 1型糖尿病患者において食事中の脂質は食後の血糖値を上げインスリン必要量を増やす; 炭水化物量に基づくボーラス量計算と重点的糖尿病マネージメントへの意義. Diabetes Care 36: 810-816, 2013
  2. Pankowska Eら: 栄養データベースソフトを用いたボーラス注入量計算、ポンプ使用者における食事時インスリンプログラムの新しい概念. J Diabetes Sci Tech 4: 571-576, 2010
  3. 3. Elleri Dら: 青年1型糖尿病患者における36時間人工膵による基礎インスリン注入. Diabetes Care 36: 838-844, 2013
おおはしクリニック
2013年4月

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