今月の糖尿病ニュース

2012年9月の糖尿病ニュース

9月も彼岸になりようやく屋外で運動しやすくなってきました。

糖尿病診療にも関係の深い(久山町研究によると糖尿病のない人に比べ冠動脈疾患2.6倍、脳梗塞3.2倍なりやすい)動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版が6月に出版され昨今よく勉強会が開かれます。データベースNIPPON DATA80をもとに個々の患者さんについて心臓病、脳卒中などの危険性を10年間で何%と絶対評価できる付録CDが付いていること、慢性腎臓病(CKD)をリスクとして新たに重視することなどと並んで、non HDL即ち「総コレステロール-HDL(= LDL+5/中性脂肪(TG): Friedewaldの換算式使用した場合)」値をLDL値の補助として臨床現場に導入したことが特徴です。

しかしnon HDLの方がLDLよりも心血管疾患リスク評価には適している、non HDLを下げればリスクは減少することは大筋の合意ですが治療方針となるとLDLを下げることに専念、TGも下げる、HDLを上げると3つの方法が挙げられ合意は得られていないようです(1)。スタチンでLDLを強力に下げればTGもさがる、TGが200mg/dl以上の人に絞れば(TG治療薬)フィブラートは有効、HDLを上げるCETP阻害薬は副作用のため停滞しているがまだ新規に開発中のものもある、HDLの構造蛋白の違いにより抗動脈硬化作用は変わってくる、など様々な議論があります。
LDLに比べ動脈硬化との関連がはっきりしないTGですが、TGにしぼったガイドラインが発表されましたので要点をまとめました(2)。

  1. 検査採血は12時間以上の空腹で行う;食後TGは心血管疾患との関連がより強いかもしれないが食事内容・食後経過時間を統一した診断基準がないため特にスクリーン目的などに採用するのは時期尚早。 レムナント(臨床ではRLPコレステロールやapo B48蛋白として測定)も食後高TGに関与。
  2. 血中TG値を200~999mg/dlを中等度、1000~を重度、2000~を超重度高TG血症と定義、心血管系疾患と関連が深いのは中等度で重度以上の場合は心血管疾患との関連は薄く膵炎の予防が治療の主目的になる。
  3. 高TG血症のうち心血管疾患のリスクが高いのはLDLも高い家族性複合型高脂血症(主としてIIb型)の素因があるもので、リスクの低い家族性高TG血症(主としてIV型)と鑑別が重要である。その際心血管系疾患の家族歴問診とapo B、non HDLの測定が有用である。
  4. もうひとつ心血管疾患と関連深いIII型高脂血症は遺伝的素因に糖尿病など後天的要素が加わって発症する。TGとLDL両方増えるが診断には電気泳動でbroad βバンドを検出する。
  5. インスリンには血中遊離脂肪酸(肝でTG合成材料になる)低下、LPL活性(TG分解)増加、apo B産生抑制作用があり血中TGを下げる作用がある。
  6. 中等度の高TG血症がある場合、LDL測定のみでは心血管疾患のリスクを過小評価する恐れがありnon HDLまたはapo Bを測定して、治療効果の指標とすべきである。
  7. 中等度の高TG血症の治療はフィブレート、ナイアシン、n-3系脂肪酸(DHA、EPA)いずれか単独、スタチン単独、または両者の併用が考えられる。食事療法の要点は低炭水化物、とくにぶどう糖果糖液の制限だが、肥満のある場合は体重減量目的にカロリー制限である。運動は可能なら高強度の運動やレジスタンストレーニングも考慮する。
  8. 高度以上の高TG血症にはフィブラートが強く勧められる。食事は脂肪制限が重要である。
  9. 2次性高TG血症;アルコール、薬(サイアザイド、βブロッカー、向精神病薬、胆汁酸吸着レジン、エストロゲンなど)、内分泌変化(妊娠、副腎皮質ホルモン過剰、甲状腺ホルモン低下、未治療の糖尿病・インスリン不足)があれば対策を考える。

複雑なTGを理解するのに参考になったのが(4)です。LPLに代表される高TG関連遺伝子異常数とTG値との相関、遺伝子変化の多様性、遺伝子が生活習慣に修飾されること、また家族性複合型高脂血症に関係するAPOA-V遺伝子などの上流に位置するUSF1遺伝子の話、および遺伝子を調べて治療の必要性判定や薬剤有効性予測ができるようにするという将来の展望が述べられています。

おおはしクリニックTGの治療は生活習慣是正が強調されますが、一例としてARIC研究があります(3)。空腹時血糖100以下、血圧120/80以下、総コレステロール200以下の検診目標どの項目も達成出来なくても禁煙、体重減量、野菜・魚などしっかりとる、週に2時間半歩くことすべて達成できれば心血管疾患発症率は半分になる、逆に検診項目がすべて達成されていても上記生活習慣4項目が一つも実施されていないとほぼ同じリスクになることが示されています。

最後にフィブラート製剤でTGを治療すると腎症、網膜症に効果があり、アルブミン尿の進展、レーザー療法を要する網膜症が有意に減少したことも特筆すべきことです。糖尿病患者さんは内服薬剤数が多いので優先順位が難しいですが患者さんによっては朗報と思います。

  1. Bersot TP (LDLをさらに下げる), O’Brien KD(TG、HDLを改善させる): スタチン治療にてもnon HDLが下がらない場合次の一手は? 第72回アメリカ糖尿病学会学術会議Webcast, 2012
  2. 2. Berglund Lら: 高中性脂肪血症の評価と治療:アメリカ内分泌学会(An Endocrine Society)臨床実践ガイドライン. J Clin Endocrinol Metab 97: 2969-2989, 2012
  3. Forsom ARら: 地域住民の健康的生活習慣の度合いと心血管疾患発症率. J Am Coll Cardiol57: 1690-1696, 2011
  4. Johansen CTら: 血中TGを決める遺伝子. J Lipid Res 52: 189-206, 2011

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