2012年8月の糖尿病ニュース
今年は初出場、杵築高校を応援しに甲子園へ出掛けました。早く球場に着いたので終盤2イニング程観た前の試合で、桐光学園松井投手が奪三振の新記録を作っていたとは帰宅後テレビのニュースで知りました。しかし全身バネのような、テンポのよい投球は何の前情報を持たずとも印象的でした。
今月のテーマは関節炎です。おおはしクリニックでは看護師(糖尿病療養指導士資格者含)に診察前に問診をしてもらいますが、糖尿病患者さんで意外に多いのが皮膚と関節症状です。アメリカ糖尿病学会ホームページによると五十肩(frozen shoulder)の罹患率は一般に5%のところが糖尿病の人では20%と約4倍にものぼります。Smithらの総説でも前者に2~10%、後者に11~30%とされており、ほかにも手の拘縮(デュプイトラン拘縮)は同13%および20~63%とかなりの差です(1)。
日本のものが見つからないのでアメリカ人のデータ(2008~2010年18才以上国民健康聞き取り調査、無作為に76542名抽出)(2)ですが、医師から糖尿病と診断を受けた人々(平均60才)のうち関節炎(関節リューマチ、痛風、ループスまたは線維筋痛症を含む)と医師から告げられた者の割合は48.1%でした。またこれら関節炎を持つ人たちの中で日常生活に支障をきたしている者(AAAL)の割合は55.0%でした。糖尿病でない集団(平均45才)と年令差などを考慮・補正して比べると関節炎は44%増、AAALは21%増でした。
関節炎は年令、体重とともに増加しましたが、AAALの割合は(糖尿病の人では)年令とは無関係、体重とはU字型関係が見られました。比較的若年で糖尿病と診断されている人、やせの人にAAALの割合が高いのはなぜでしょうか。非ヒスパニック系白人(関節炎の頻度は高い)、高学歴の人でAAALの比率が低い現象と合わせて「興味深い」(2)結果です。なお学歴の問題は他の研究から職業との関連が推察されています。
この論文で一番強調されているのが関節炎と運動量の関係です。糖尿病の人において関節炎の頻度は、週150分以上運動する人に比べ10分以下の人(非活動型)で1.22倍、AADLはより顕著で1.72倍であることから、「糖尿病では関節炎が運動不足を引き起こし、さらに過半数が陥るAADLになればさらに運動不足は深刻化する」と結論し関節炎をもつ人の運動を促すガイドラインなどの整備を訴えています。ちなみに2005~2007年版では関節炎そのものによる運動不足(非活動型になる)リスク増加を30%と計算しています(3)。
一方逆に運動が関節炎に好影響を与える可能性があり、運動・食事・薬剤により血糖を良好に保つことがリューマチ(関節)状態の改善または予防をもたらす(1)、有酸素運動が関節リューマチの痛みを和らげ生活の質向上に有用かつ安全に行われる (4)という報告があります。
糖尿病と関節炎と運動の関係は複雑ですが悪循環を形成しないよう十分な注意が必要です。
参考文献
- Smith LLら: 糖尿病の筋・骨格症候発現. Br J Sports Med 37: 30-35, 2003
- Cheng YJら: 2008~2010年アメリカ合衆国成人における糖尿病有無別関節炎の頻度および関節炎に起因する活動制限の頻度. Diabetes Care 35: 1686-1691, 2012
- Bolen Jら: 糖尿病患者において運動の妨げになりうる関節炎;米国内2005~2007年のデータから. MMWR 57: 486~489, 2008
- Jennie Sら: 有酸素運動は関節リューマチ患者に有用である. Br J Sports Med 45: 1008~1009, 2011
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