今月の糖尿病ニュース

2012年4月の糖尿病ニュース

おおはしクリニック

4月14日は桜満開の京都へ内科学会に、19日は新緑の名古屋へ内分泌学会に出かけました。短時間の出席でしたがどちらでも話題になっていたのが「医療の個別化」についてです。遺伝子情報により個々人の疾患リスクや薬の効果予測がはっきり示されれば、本人の自覚が高まり無駄も少なくなるというわけです。

エピジェネティクスとは、個々のDNAに加えられた後天的な修飾を扱う研究分野で5年程前から大変注目されています。ウィキペディアによるとDNA複製と突然変異とによる変異は親と子との世代間の変異であるが他方、エピジェネティクスの変異は同一個体内での、部位や個体の発生や分化に関する時間軸上の違いで差を生じる変異でもある、と述べられていますが今回内分泌学会では「核内受容体のエピジェネティクスと内分泌代謝疾患」というシンポジウムが組まれました。

糖尿病ではしばしば治療抵抗性の高血圧が見られ、血中ミネラルコルチコイド(アルドステロン)が高値でないにも関わらずミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(アルダクトンなど)が有効なことが知られています。
また、糖尿病の合併症は過去に一定期間高血糖が続いた場合、血糖値を正常にコントロールしても進行するメタボリックメモリーという現象が知られています。
今回慶応義塾大学、福岡大学他のグループは高血糖に伴って増加するO-GlcNAcという物質が遺伝子を修飾することにより上記現象を起こすことを発表しました。遺伝子変化によりミネラルコルチコイド受容体蛋白発現増加、ミトコンドリアDNA体細胞変異蓄積がおこるそうです。
悪玉遺伝子が増えないうちに早く血糖を下げましょうというアプローチが示唆されますし、新たな合併症リスクマーカー誕生が期待されます。

もうひとつ雑誌からの糖尿病ニュースです。
2011年8月に妊娠糖尿病の新しい診断基準と管理指針、つまり妊娠中期以降の血糖コントロール指針について文献紹介しましたが、今月は妊娠する前の血糖コントロールと先天奇形頻度について下記の論文をご紹介します。イギリス北部ニューキャッスル地方およそ300万人住民中すべての妊娠について妊婦の糖尿病歴、妊娠前HbA1cなどのプロフィール調査NorDIPと詳細な(器官別種類別)先天奇形調査NorCASをあわせて分析したもので、かつてない洗練された精巧なデザインの研究であることから議論の余地のあった問題も解決され、妊娠前はできるだけ血糖値は下げた方がよいことが確認されたというものです。結果はHbA1c6.3%(JDS5.9%)を基準にHbA1c1%上昇ごとに30%奇形リスクが上昇、全体で糖尿病対非糖尿病では約4倍のリスク上昇、糖尿病妊婦は13人に一人先天奇形と関係するということで1型2型別、糖尿病の罹患歴などは無関係でした。今後の課題としては症例数が少ないため評価できなかった6.3%(同5.9%)未満のリスクについての検討、食後高血糖や血糖変動などの影響検討、今回もうひとつ有意なリスクとして浮上した腎障害のリスクについての追試が挙げられました。血糖値をどこまで下げたらよいかは不明ですが著者は可能な限り下げるべきと述べています。

参考文献

  1. 1. Bell Rら:既存の糖尿病合併妊婦において受胎期の高血糖と腎障害が先天奇形のリスクと関連する;地区全住民調査によるコホート研究. Diabeologia 2012; 55:936-947

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