2012年2月の糖尿病ニュース
大雪の2月でしたが東京マラソンは好天に恵まれそうで楽しみです。
今年に入って東西の巨匠、順天堂大学河盛先生、関西電力病院清野先生の講演を聴く機会がありました。そこで強調されたのが今まではインスリンやGLP-1の“裏方”だったとも言えるグルカゴンとGIPです。グルカゴンは膵臓のα細胞から分泌される血糖値を上げるホルモンですが、今後はβ細胞からのインスリンと並んで血糖コントロールの鍵として扱われるだろうとのこと。GIPはGLP-1と同じインクレチンとしてDPPIV阻害剤(ジャヌビア、グラクティブなど)内服により増加するものの善玉GLP-1と比べると影が薄く、それどころか悪玉扱いされることもあったのですが、状況次第で重要な働きをしているようです。
まずグルカゴン関連で2型糖尿病臨床に参考になる論文をいくつか読んでみました。
インスリン治療中にDPPIV阻害剤を併用すると低血糖が減る(1)という論文は薬を足せば低血糖は増えるものという常識を覆すものでインパクトがありました。インスリン分泌が低下するとグルカゴンが適切に抑制されなくなるため食後高血糖にもなりやすい(2)のは理解しやすいですが、逆に低血糖にもなりやすいという事実はどう考えたらよいか悩みます。ランタス8週間使用により空腹時血糖を正常化するとβ細胞の機能回復のみならずそれに伴いα細胞機能も改善するので食後血糖が下がる(3)という説は日常臨床でよく行うBOT療法の奥の深さを感じました。
DPPIV阻害剤によるグルカゴン分泌増加は副交感神経を介する(4)とも言われていますが上記のように十分なインスリン、血糖正常化も適切なグルカゴン調節には必要と考えられ、今後の研究成果が待たれます。
一方GIPですが2型糖尿病ではインスリン分泌促進しないばかりか、GLP-1のグルカゴン抑制作用(α細胞への直接作用ではなくインスリンかソマトスタチンを介して)を妨害する(5)、正常(非糖尿病)人ではGIPを投与すると血糖値レベルに応じてインスリンまたはグルカゴン分泌を促進または抑制し血糖を安定化方向に導く(6)という両面性の報告があり、清野先生の言われるDPPIV阻害剤を長期に服用し安定期にはいるとGLP-1よりGIPが血糖降下作用を発揮するという話を合わせて考えると、糖毒性という言葉を思い出しました。GIPを生かすも殺すもまず血糖値を正常にするのが大事なのかと思いました。
参考文献
- Fonseca Vら: 2型糖尿病においてビルダグリプチンをインスリンに併用すると血糖コントロールが改善する. Diabetologia 2007; 50: 1148-1155
- Menge BAら: 2型糖尿病患者では拍動的インスリン・グルカゴン分泌の逆相関が失われる. Diabetes 2011; 60: 2160-2168
- Pennartz Cら: 2型糖尿病患者ではインスリングラルギンにより空腹時血糖を持続的に下げると第1、2相インスリン分泌が改善する. Diabetes Care 2011; 34:2048-2053
- Arren Bら: 2型糖尿病患者にビルダグリプチンを投与すると高血糖・低血糖両方に対して膵島の応答が増強される. J Clin Endocrinol Metab 2009; 94: 1236-1243
- Mentis Nら: 高血糖を呈する2型糖尿病患者ではGIPはGLP-1の糖尿病治療効果を高めない. Diabetes 2011; 60: 2160-2168
- Christensen Mら: GIP(Glucose-Depandent Insulinotropic Polypeptide)はヒトにおいて血糖値依存的にグルカゴンとインスリン分泌を制御する2機能を持つ. Diabetes 2011; 60: 3103-3109
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