今月の糖尿病ニュース

12月の糖尿病ニュース

 2011年最終ニュースです。今月はこの10年ほどの間に糖尿病眼手帳の普及、VEGF阻害剤の登場、光干渉断層計による黄斑浮腫の診療などにより変革期を迎えている糖尿病性網膜症をとりあげます。

 日本の縮図といわれる福岡県久山町疫学研究における1998年と2007年の調査によると網膜症の有病率はそれぞれ16.9%と15.0%と頻度は変わらないものの重症の前増殖型、増殖型は有意に減少していることがわかりました(1)。眼科治療の進歩とともに糖尿病眼手帳の普及などによる密な眼科との連携が寄与していると考えられています。

 最近では一歩進んで例えばAspelundらは、リスクの高い人を重点的にフォローし低い人の時間的経済的負担を減らすことを目標に、住民のデータベースから1・2型別、性別、網膜症の有無(増殖型をのぞく)別に、血圧値、HbA1c、糖尿病罹患年数と視力低下につながる糖尿病性網膜症発症の関係を調べました(2)。そしてそれをもとに推奨眼科受診間隔を6か月未満から5年に分けて示し、全体平均では29カ月に一回、毎年一回という標準法より59%長くなりました。個々の例を挙げると同じ2型糖尿病、罹患歴10年、HbA1c8%、網膜症(非増殖性)ありでも、女性で血圧120なら2年半間隔、男性で血圧140なら7カ月間隔という具合です。予後規定因子の比重は網膜症の存在が一番、次いで2型では血圧、HbA1cの順となっています。 血圧はリアルタイムが重要なのに比しHbA1cはその時点より過去2~3年前の値がより大きく影響、または高値持続(AGEの蓄積量)が問題といわれる、所謂メタボリックメモリー(3)(4)という現象がデータベースに反映されていないためかもしれません。血圧をどこまで下げるかはUKPDSやACCORD-Eye調査にて140までは確認されているもののそれで十分か否かは不明(3)ですがこの論文では140より120の方が良好な結果として示されているのが注目されます。

 メタボリックメモリーと並んで血糖値と網膜症の関係を複雑にするものとして急速な血糖コントロールによる網膜症進行(3)があります。長期の高血糖で低下していたIGF-1が急速な血糖改善とともに増加しVEGF産生が刺激されるのが機序とされていますが、詳細はまだ不明のようです。そんな中Holfortらは(5)軽度から中等度の網膜症をもつ平均38才罹病期間22年の1型糖尿病患者17名にCSII(持続インスリン注射)を行い、平均血糖を1週間で約230から140まで下げたのち1年間維持し、暗順応計、網膜電図などを用い機能の面から変化を観察しています。持続的な血糖低下は4~12ヶ月目以降になって初めて棹状細胞の光受容体暗順応改善等(機能改善)が見られたことから、時間的経過の相似より網膜症悪化との関連を推測しています。もし関連があるならこの機能改善を止められれば網膜辺縁機能を落として中心窩機能を温存する光凝固と同様の効果が期待できるのではということ、 また酸素に比し糖の不足になる血糖コントロール強化時適合に重要な役割を果たすのはミューラー細胞なのでその研究が必要なこと、網膜機能と代謝を結びつけるのが課題などを考察としてあげています。日常臨床ではリスクの高い人は半年から1年かけて血糖を正常化するとされていますが裏付けになる研究が待たれます。

参考文献

  1. 安田美穂: 糖尿病性網膜症の疫学. Diabetes Frontier 22: 358-361, 2011
  2. Aspelund Tら: 糖尿病性網膜症の適正な受診間隔を決めるための個人個人のリスク評価と情報工学. Diabetologia 54: 2525-2532, 2011
  3. 吉田洋子:内科医の立場から注意する糖尿病性網膜症治療のポイント. Diabetes Frontier 22: 411-417, 2011
  4. Lind Mら:HbA1cのメタボリックメモリーの具体的経過:時間依存効果を考慮したDCCTの再分析. Diabetologia53: 1093-1098, 2010
  5. Holfort SKら: 1型糖尿病における血糖コントロール改善と網膜機能の関連. Diabetologia 54: 1853-1861, 2011

11月に職員とゲストでチームを作りリレーマラソンに参加しました。

おおはしクリニックメンバーでマラソンに参加
2011年12月

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