今月の糖尿病ニュース

8月の糖尿病ニュース

おおはしクリニック

 今年は雨天中止が一度もなく熱闘甲子園は終了しました。

 今月は妊娠糖尿病を取り上げます。2010年3月にIADPSG(糖尿病・妊娠研究グループの国際協会)が世界共通の妊娠糖尿病診断基準を提唱したのを機に日本糖尿病・妊娠学会もこれを採り入れ「75gOGTT(経口糖負荷試験)を行い空腹時92mg/dl以上、1時間値180mg/dl以上、2時間値153mg/dl以上のうち一点以上を満たすもの」を妊娠糖尿病としました。この新しい基準によると世界的には陽性率が従来の約2倍となり全体17.8%が妊娠糖尿病と診断されることになり、我が国では三重大学杉山らのJAGS研究に基づく試算ではなんと4倍になるとのことです。厳しく介入することにより巨大児(LGA)出産が減り新生児低血糖、高ビリルビン血症、肩甲難産、分娩損傷, 妊娠高血圧腎症を減らすこと、母を出産後糖尿病にしないこと、子・子孫が将来肥満や耐糖能異常になる確率を減らすことが期待されています。

 しかしそうした中、ヨーロッパ糖尿病学会は機関紙Diabetologia2011年9月号にコメントを載せています。高血糖による問題は直線的な比例関係のため線の引き方が難しいこと、LGAは血糖以外の原因でもおこり78%のLGAは「正常」血糖妊婦から生まれること、妊娠高血圧腎症などは血糖値より肥満とより相関すること、75gOGTTは再現性に問題のあること、などよりまだ検討の余地があるのではという意見で、5人にⅠ人も陽性者がでるのは経済的な問題、妊婦の精神的な影響もあるのではと指摘しています。 同号には他にも妊婦の肥満について投稿があり、2型のみならず1型糖尿病合併妊婦にも妊娠期間中メトホルミンを使用することが提案されていました。妊娠糖尿病には2008~2009年にすでにメトホルミンの有効性と安全性が報告されているようです。

 調べてみると以下の点はまだ国際的に、国内的に見解が統一されていないようです。 75gOGTTをいつするか? 妊婦全員にするか?選抜するならスクリーニングの方法は? ハイリスク者は妊娠前に75gOGTTをするべきか?(流産や奇形を防ぐためには妊娠前から血糖コントロール必要) 妊娠前75gOGTTで境界型と診断されたらなんと呼ぶか?(境界型糖尿病合併妊娠?)血糖コントロールの目標値は?

 75gOGTTは国際的には妊娠中期24-28週に全員する方向、日本では妊娠初期に随時血糖95以上、中期に随時血糖100以上(糖尿病学会)、または50g糖負荷1時間後140以上(産婦人科学会)の人にする方向、目標血糖値は妊娠糖尿病では国際的には空腹時95以下、食後1時間140以下、食後2時間120以下、日本では空腹時70~100、食後2時間120未満、HbA1c5.8%未満、糖尿病合併妊娠では米国糖尿病学会では食前、眠前、夜間60~99、食後ピーク100~129 A1c6.0%(JDS換算5.6%)未満、日本では妊娠糖尿病と同じ基準のようで、とくに計画妊娠の場合は一般の優レベル(A1c5.8未満、空腹時80~109、食後2時間80~139)を目標に掲げています。すべてきびしめの値をとるとA1c5.6未満、食前95以下、食後1時間129以下、食後2時間119以下ということになります。

2011年8月

>>糖尿病ニュースバックナンバーはこちらから

▲ ページ先頭へ