今月の糖尿病ニュース

7月の糖尿病ニュース

おおはしクリニック

 当クリニックの糖尿病教室も今月で20回目となり記念大会と称して運動について講演と実技指導をすることになりました。運動はHbA1cを下げる、または体重を減らす効果を期待してされる方が多いと思いますが、食事療法が伴わないとどちらも叶わず、やる気が失せてしまいがちかもしれません。しかしそれでも運動が無駄ではないことの一例として認知機能のうち遂行機能に対する効果を取り上げました。遂行機能とは、例えば独居が可能か否かを決める大事な要素で計画性、柔軟性などの能力です。日本糖尿病学会誌2011年5月号太田らの論文によると糖尿病患者は遂行能力が一般に比し低く、遂行機能が低いと自己管理の継続にはかえって有利かもしれないが一旦治療方針が変わると付いていけなくなる恐れがあると述べられています。運動の遂行機能への効果については先月開かれたアメリカ糖尿病学会でEggermont氏のわかりやすい講演がありました。遂行障害は脳前頭葉と海馬を結ぶ回路の障害であるが運動習慣の有無で前頭葉と海馬の神経密度に差があること、糖尿病の集団ではないが運動量の多い集団は遂行機能も高いこと、運動すると神経ネットワークを促進するニューロトロフィンが分泌増加すること、などがわかっており現在も臨床研究が進んでいるそうです。

 そうなると糖尿病状態ではなぜ遂行機能が落ちるのかという疑問がわきます。言い換えれば、運動ではなく食事療法や薬で血糖値を下げても遂行機能は改善するのではという疑問です。そこでひとつのヒントとしてヨーロッパ糖尿病学会誌Diabetologia7月号「HbA1cと認知機能低下」を読みました。 ARIC研究という有名な米国内複数地域住民の前向き研究の一部結果ですが、確かに医師に糖尿病と診断されたものは6年後認知機能(遂行機能等)の低下が大きかったのですが、スタート時点のHbA1cが高いほど悪かったとはいえず8%以上が7%以上8%未満より悪くなるケースが見られました。

 糖尿病状態に付随するものとして、血糖の変動、低血糖、網膜症(細小血管障害)の有無、炎症、酸化ストレスなど必ずしもHbA1cと比例しない因子が認知機能には影響する可能性、脳内のインスリン作用の問題、脳の部位(皮質と白質など)によって高血糖の影響が異なる可能性、まだまだ解明すべき問題が残されています。

2011年7月

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