今月の糖尿病ニュース

6月の糖尿病ニュース

 今月は上旬に一般新聞でも報じられたアクトスと膀胱がんに関するニュースからです。外国では新規処方を控えたり、すでに膀胱がんに罹患している患者さんには制限したりする動きがあります。日本では18日現在まだガイドラインは出ていないので、当面クリニックでどう対応するか考えてみました。アメリカ糖尿病学会誌DiabetesCare2011年4月号に掲載された論文によると、膀胱がん新規発症率は10万人の糖尿病患者さん1年当たり約70~80人、そしてアクトス内服により膀胱がん発症率が約20%上昇する可能性を指摘しています。またアクトスを内服中の糖尿病患者さんは約15%とされています。以上をもとに計算してみると糖尿病患者さんの膀胱がん新規発症率は寝屋川市に年間20人大阪府で600人前後、うちアクトス内服中寝屋川市3人大阪府90人、従ってもしアクトスをすべて使用中止にすると今後寝屋川市では2年に1人、大阪府では1年に15人膀胱がん発症が減ることになります。糖尿病患者さんの膀胱がん有病率(治療中の人)をおおよそ120人に一人とすると(同6月号より)、医師ひとりあたりおよそ一人の膀胱がん合併かつアクトス内服中糖尿病患者さんをうけもっていることになり、その患者さんのアクトス処方は中止検討するとして残り数十名の患者さんのアクトスはどうしたらよいのでしょう?アクトス中止により予想されるデメリットは血糖値の悪化以外、動脈硬化の悪化、脂肪肝の悪化、心筋梗塞発症増加が挙げられ、さらに脂肪性肝炎の悪化から肝癌の増加、また代替薬としてSU剤またはインスリンを使うと膵臓癌の増加(上記論文データベースによる)も懸念されます。今後よくプラスマイナスを検討して方針を決める必要があります。

 代替薬はメトホルミンがまず挙げられます。膵保護作用などアクトスに及ばない面もありますが悪性腫瘍の合併率ではおそらくアクトスより優っていると考えられます。今回のデータベースでも多種の癌に影響なしとされています。ユニークなのは50年の歴史のある薬ですが15年ほど前から有効性と安全性の評価がどんどん上がっていることです。たとえば国内では昨年6月から最大用量が750mgから2250mgに引き上げられていますし、アメリカ糖尿病学会は今月「軽度から中等度の腎機能障害患者に対するメトホルミン使用」という総説・声明を発表して禁忌の患者さんを減らす方向にあります。

 1970年代に乳酸アシドーシスという重篤な副作用が同じ系統(ビグアナイド剤)の類似薬フェンホルミンで報告されて以来、ビグアナイド剤は血中乳酸値を上げアシドーシスをおこすとされ、その上腎機能が低下するとさらに乳酸値が上がり危険と考えられたため現在「血中クレアチニンが男性1.5以上、女性1.4以上ではメトホルミンは使用しない」ことになっていますが、同じビグアナイド薬でもメトホルミンの場合は内服量と乳酸値の関係、また乳酸値とアシドーシスの関係もがはっきりしないことがわかり今回の改訂案では「血中クレアチニン1.7相当のeGFR30以上なら使用可能」とされました。ただしeGFR45未満では新規メトホルミン処方はしない、腎機能を3ヶ月毎にチェックする、用量を半分にするとしています。

おおはしクリニック
2011年6月

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