今月の糖尿病ニュース

12月の糖尿病ニュース

 2010年最後になりました。今年最大の糖尿病ニュースはインクレチンの臨床現場への登場で間違いないでしょう。先日NHK「ためしてガッテン」の特集を見られた方も多いことでしょう。次に目立ったのはメタボで、最近はそれに類してロコモ(ロコモティブ症候群=運動器症候群、要介護につながる骨粗鬆症、関節症、脊柱管狭窄による移動能力の低下)なる標語も生まれました。そこで11~12月のアメリカ糖尿病学会誌と日本医師会雑誌からメタボとロコモに関連した記事を紹介します。

2010年12月の糖尿病ニュース アメリカスポーツ医学会と糖尿病学会が合同で2型糖尿病の運動療法についての見解(position statement)を発表しました。研究が進み運動の重要性を裏づける信頼性の高いデータが集積してきたことが背景です。厚生労働省のつくった「健康づくりのための運動指針2006」(1週間23エクササイズ(=メッツ×時間)の運動か生活活動を、そのうち4エクササイズは運動を)と同様、可能であれば強度の強い運動を勧めています。たとえば10メッツの運動(たとえば9.6km/時のランニング)の運動は75分すれば目標となる週150分(1回10分以上、週3回以上に分けて)の5メッツの運動(6.4km/時の速歩)に相当するとしています。強い運動をすると運動耐容能(メッツ)が向上し癌などをふくむ死亡率が最大1.7~6.6分の1に減るというデータを理由にあげています。ただし平均的な糖尿病患者さんの最大運動耐容能は一般より低く6.4メッツと言われているので実際はその75%の4.8メッツ以下が現実的な線とされています。一歩一歩目標を上げていくとよいでしょう。

また有酸素運動のみならずレジスタンストレーニング(筋トレ)も血糖・インスリン感受性改善のため推奨されました。週3日以上、1日3度以上、最大負荷(たとえばおもりの重さ)の75~80%の強さで8~10回繰り返し、全身にわたる8~10種類(太もも、腰、腹筋、腕など)の運動がゴールですが最初は指導を受け、まず繰り返し回数は減らして強さを上げ、次に回数を上げ、順に一日の度数、週あたりの日数を増やしていき6ヶ月程度かけてゆっくりアップするのがこつとのことです。もし難しければ糖尿病予防治療ではなく移動能力をあげるため考えられたものではありますが「ロコトレーニング」の左右1分ずつの開眼片足立ち、5~6回のスクアットから始めたらどうでしょう。これは家の中でつまずく、階段が手すりなしで上れない、蒲団の上げ下ろしができない、片足で靴下がはけない、牛乳パック2本(2kg)が持ち帰りできない、青信号で渡れない、15分以上歩けない、人には必須です。

おおはしクリニック ほかにも積極的に運動を勧める姿勢があらわれていて妊婦、腎症のある人にも運動は推奨されています。産科的注意、血圧尿蛋白管理が必要なことは言うまでもありませんが。また従来は控えるべきとされた血糖値が300以上のときでもケトン体が出ていなくて体調のよい2型糖尿病患者さんなら水分を十分とれば運動可能となりました。慢性期の虚血性心疾患や心臓自律神経障害のある場合でも運動負荷試験をすればOKです。足潰瘍の恐れのある末梢神経障害の強い人でもフットケアを十分行えば普通の散歩は禁止でなくなりました。依然禁止なのは重症の網膜症のある人です。 ストレッチなどの柔軟体操は別個に考えるべきで単独では不足である、体重減量を維持するには5メッツ程度の運動を毎日1時間ほど必要とするなども厳しい内容もありますが、 現実になかなか困難な場合は“ちょこまか”運動なら万歩計で10000歩、じっと座っているテレビや余暇のパソコンは一日1時間までに、といった“妥協案”も示されています。

加齢男性性腺機能低下(LOH)症候群は男性ホルモンの低下によっておこり、性欲・勃起能低下、認知力・見当識の低下、疲労感、抑うつ、睡眠障害の他、内蔵脂肪型肥満、骨量減少、つまりメタボ、ロコモをひきおこす最近テレビでも紹介された話題の症候群です。診断はAMSスコア(http://www.urol.or.jp/iryo/guideline/pdf/gl_LOH.pdf)という問診票(27点以上)と血中遊離テストステロン測定(8.5pg/ml未満)によって行われます。前立腺がん、高度な前立腺肥大、睡眠時無呼吸症候群がなくPSAが2.0未満であればエナルモンデポという注射薬による補充療法の適応があります。治療開始後はPSAや遊離テストステロンを定期的にチェックしていきます。補充療法の骨粗鬆症の骨折予防に対する効果は不明のためビスホスホネート製剤が使われることもあります。なお前立腺がんの治療には抗アンドロゲン(男性ホルモン)療法が行われますが糖尿病や骨折のリスクが増加することがわかっています。またLOH症候群と生活習慣病は相互に因果関係があり、肥満の解消や運動によってたとえばED(勃起不全)が改善することが報告されています。

男性において個人差が大きいのに対し女性の性腺機能低下は閉経により比較的平均的におこります。更年期障害が強く乳がん・子宮がん、血栓症のない人には女性ホルモン(エストロゲンおよび黄体ホルモン)の補充療法を、骨粗鬆症には骨だけに作用するエストロゲン製剤またはビスホスホネート製剤治療を行います。エストロゲンの糖尿病や動脈硬化に対する作用は複雑で高濃度では悪化させる危険があります。

骨粗鬆症の話題も豊富で、2型糖尿病では骨密度が正常でも骨質の悪い骨質劣化型とよばれるタイプの骨粗鬆症が多く、東京慈恵医科大学整形外科 斎藤 充先生の解説によると骨折のリスクは1.5倍といわれています。建物に例えると鉄筋に相当するコラーゲンの老化によるもので、血中ホモシステイン>1.5、ペントジシン>0.05(同じく斎藤先生の作ったマーカー)が評価に有用とのことです。骨粗鬆症関連では副甲状腺ホルモン製剤が販売開始になり、新しいビタミンD製剤が販売予定になっています。

今年1年ありがとうございました。来年も、糖尿病臨床に関する話題を提供して参りますのでよろしくお願いいたします。

2010年12月

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