今月の糖尿病ニュース

10月の糖尿病ニュース

 おおはしクリニックの糖尿病ニュースも1年一回りして13回目になりました。これからも毎月新しくかつ診療に結びつく情報をお届けします。この数カ月、最もホットな話題はインクレチン関連薬、すなわちビクトーザ、グラクティブ/ジャヌビア、エクア、ネシーナがどんな人によく効くかというテーマです。いまのところ食後または食前血中Cペプチド(自前のインスリン)を測ってみるのが参考になるという意見が多いようです。高い方が効果良好で、低い場合はSU剤併用が必要で、0に近い場合は禁忌で・・等です。肥満度、糖尿病罹患年数、使用開始時HbA1cについては不明です。やせている人に向く、HbA1cが高いと効かないという意見もありますが当クリニックの患者さんには必ずしも当てはまりませんでした。欧州糖尿病学会誌Diabetologia11月号にはTCF7L2、GIPR、WFS1遺伝子の異型を持つ人はインクレチンがあっても効果が低い、同様にKCNQ1の人は同様にインクレチンの出が悪いと書いてありました。遺伝子を調べれば薬が効くかどうかわかる時代がやってくるということと、糖尿病になりやすい遺伝子の多くがインクレチンに関連しているということがわかりました。

次は7月のニュースで予告した1型糖尿病インスリン療法のひとつ、CFPカウンティングについてです。今年米国糖尿病学会でドイツのKordonouriという医師が発表しました。 1型糖尿病の場合食事量に応じてインスリンを補充するのが一般的ですが、標準法であるカーボカウントに対して、炭水化物以外脂肪とタンパク質を計算にいれてインスリン補充も3~8時間(4時間ぐらいが普通)一定補給を加え2相性に行うという方法です。サラミピザなど脂肪の多いメニューのとき食後血糖値が下がり高血糖持続時間が短縮すると言われています脂肪とタンパク質を合わせ100 kcalあたりに必要なインスリン量はおおよそ10gの炭水化物と同じとのことです。ヨーロッパの青少年のデータを日本の成人で直接使えるかどうかは別にしてカーボカウントがうまくいかない人には参考になる話と思いました。

糖尿病性神経障害の診断治療アップデートが米国糖尿病学会誌DiabetesCare10月号に掲載されました。診断には症状、アキレス腱反射などの所見に加え神経伝導速度(NC)を重視し重症度の判定にも欠かせないとしています。一方、NCが正常な場合、皮膚の生検や最近開発された角膜検査器(Corneal confocal microscopy)などを使うと(小線維神経障害small fiber neuropathyを診断でき)早期診断可能となり食事運動療法によってもとにもどることがわかりました。糖尿病性神経障害のトピックスとして、寿命を左右する心臓自律神経障害の診断に、心拍の変動、心電図QT間隔、起立時の血圧変化に加え24時間血圧測定が新規に推奨されたことが注目されます。

先日、自治医大循環器内科主任教授 苅尾七臣先生の講演会で夜間血圧の下がらない人、朝血圧が急上昇する人、夕より朝の血圧の高い人は予後が悪いというデータが紹介されましたが逆にこれらは糖尿病性神経障害の特徴ということになるわけです。夜間早朝血圧を積極的に測るべきと考えられます。ちなみに苅尾先生はオムロンと共同で家庭用の夜間血圧計を作られたとのことです。他にも、一日の平均血圧と血圧日内変動は別個の独立した危険因子であること、心肥大やアルブミン尿の有無が予後に影響すること、PWV検査は予後判定および薬の選択にも有用なこと(PWVが高い人はCa拮抗剤、低くて塩分過剰な人は利尿剤)、今後の研究課題はストレス性高血圧(職場の会議で血圧が50以上上がる症例が提示されました)であること、など盛りだくさんの講演で、血圧も血糖同様キメの細かい調節が重要と再認識しました。

*24時間血圧測定(ABPM)のすすめ
特に白衣高血圧や血圧の日内変動が大きい方がABPMの良い適応になり、ABPMを行うことで診察室や家庭血圧が正常でもストレス状況下や夜間で高血圧になる仮面高血圧も見つけることができます。当院でも24時間血圧計を使用し測定が出来ます。

おおはしクリニック*日本に約4,000万人と推定されている高血圧患者のうち実際に治療を受けているのはわずか2割の約800万人と言われています。高血圧患者数は増え続けており、2006年(H18年)の国民健康・栄養調査では、高血圧、至適血圧+正常血圧の割合は男性(20歳以上)で53.2%、31.1%、女性(20歳以上)で39.6%、46.5%であり、男性で2人に1人、女性で5人に2人が「高血圧」でした。また2005年(H17年)の調査と比較すると高血圧の割合は男性で10.9%、女性で5.5%も増加しています

2010年10月


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