今月の糖尿病ニュース

7月の糖尿病ニュース

 今年は名古屋場所のテレビ中継がないので梅雨明け前という季節感がもう一つのまま海の日になって一気に真夏になりました。7月の糖尿病ニュースです。6月25日から28日までの4日間アメリカ糖尿病学会に出席しました。特別講演に相当するBanting LectureはRizza先生の「血糖値に対する肝臓の役割」についてでした。たとえば「食後インスリン分泌の少ない場合、脂肪肝などでインスリンが効きにくい場合とでは肝臓の糖出入りは異なる」など詳細な実験データをもとに、①糖尿病の治療(薬処方)はなぜ血糖値があがっているか背景を考慮して行うべき、②肝臓は血糖をコントロールする要、というメッセージが示されました。糖尿病患者の肝臓の異常といえばまず脂肪肝です。関西のある病院では糖尿病患者の死因の13%が脂肪肝などを原因とした肝硬変・肝がんと聞き大変驚きました。もちろん脂肪肝は重い肝臓病をひきおこすだけでなく血糖値にも影響します。Lancet誌(総合臨床医学雑誌の最高峰のひとつで近年毎年アメリカ糖尿病学会中に糖尿病特集を組んでいます)に載っていた記事によると③肝臓内脂肪量は内臓脂肪量よりメタボリック症候群やインスリン抵抗性と相関が高い、④脂肪肝において増加するDAG、PKC(という代謝産物)の動きが肝臓のなかでインスリンの効果を左右する、ということですが学会中インスリン効果が弱くなる原因について話をきいていたところ⑤果糖は肝臓のDAGをふやす、というデータが示され、栄養士さんは果糖を摂りすぎないよう砂糖、果物、ジュース、清涼飲料水、シロップに特に注意しましょう、子供には清涼飲料水でなく水をのませましょうと訴えていました。また最近は腸の話題がとくに豊富です。なんといっても腸にもともとあるものの糖尿病では不足するインクレチン(をふやすもの、および類似物)がジャヌビア グラクティブ エクア ネシーナ ビクトーザという期待の新薬になって登場したからです。今回やはり腸にあるFXR TGR5という感知器が胆汁酸(胆のうに蓄えられる消化液)の量や質の変化を察知し肝臓に糖をつくるのをやめさせたり体脂肪を燃やさせたり、少し複雑ですがインクレチンをふやさせたりする指令を出すということがわかりました。大豆、キトサン、食物繊維などは胆汁酸の便排泄をふやしコレステロールを下げる効果が知られていますが、同じ胆汁酸を排泄する薬(Welchol 日本未発売)がコレステロール降下剤としてのみならず血糖降下剤としても認可されたことということは食べ物によっては腸との反応によって血糖を下げる可能性があることになります。逆にある種の脂肪酸(飽和脂肪酸など)を多く含む食べ物は腸で炎症を起こしたり吸収されて動脈硬化や脂肪肝を引き起こしたりします。ちなみに最近この脂肪酸吸収をおさえるユニークな薬が登場しています。数年前までは糖尿病内科は循環器系内科と縁が深いと思いましたが、消化器内科的視点も大事になってきたと思います。他にも運動療法の脳への効果、サプリメントの情報収集法について、性ホルモン不足と補充療法、CFT(炭水化物・脂肪・蛋白質)カウンティング(カーボカウントにかわる?インスリン調節法)など興味深いお話がたくさんありましたが別の機会にお話しします。

糖尿病ニュース
2010年7月

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