今月の糖尿病ニュース

3月の糖尿病ニュース

点と線、有名な小説ではなく2010年3月の糖尿病ニュースのタイトルです。以前当ホームページで、HbA1cの値のみならず、血糖の変動にも注意を払うのが糖尿病専門医なのではと申し上げましたが、今月19日に東京慈恵医大糖尿病代謝内分泌科、西村理明先生の講演会を拝聴して意を強くしました。先生は2009年10月保険収載されたばかりの持続皮下血糖測定システム(Continuous Glucose Monitoring system CGMS 細いセンサーを皮下に持続的に刺しておいて、細胞間液の糖分濃度を測定する機器)を何年も前から手がけられ、豊富な経験から日本の第一人者として御活躍中で、興味深いデータや論文をたくさん教えてくださいました。CGMSは、一般的な自己血糖測定(SMBG)ポイントである4~8点間を線で結ぶ役割を果たします。専門医はデータ、知識を総動員して曲線を推定していますが(笑い話ですが学生は点を直線で結ぶそうです)、この器械は約5分間隔、1日約300回血糖を測定してあっさりと真実を伝えます(そのうちインスリンポンプと連動して治療までする器械ができるそうです。専門医の仕事が無くなります!?)。下の図は仮想の患者さん2名の一日の血糖の動きを点と線で表したものです。赤の患者さんも、緑の患者さんもHbA1cはおそらく6台で同じぐらい、点(SMBG)で評価してもほぼ良好な同じレベルなのですが、線(CGMS)で評価すると緑のほうが圧倒的に良好なのです。赤は食後の高血糖に加え、深夜の低血糖が起こっています。食後の高血糖はとくに循環器系の合併症を引き起こし、低血糖も脳や心臓に悪影響を与えるといわれているからです。線(CGMS)で評価すると振幅、つまり血糖の変動が評価できることがわかって頂けたと思います。とくに深夜の低血糖はCGMS以外では捉えるのが難しく真価が発揮されます。

また興味深いことに西村先生の報告では1日の平均血糖より変動(標準偏差)のほうが、鋭敏に糖尿病発症過程を捉えていました。食後何分に血糖がピークになるか、明け方から朝食前に血糖がどれくらい上昇するか、も重要なデータになるとのことです。他に同じ血糖値でも上がる局面か下がる局面か知ることができるので、ブドウ糖補給などの処置をする上で有用な指標になると思われます。まとめです。今年Lancet紙に発表された英国のGPRDデータの解析によると死亡率の一番低いHbA1cは7.5だったそうです。低血糖を一番おこしにくいHbA1cは7台という報告もあったそうです(8台以上はおこしやすい!)

糖尿病ニュース

残念ながらCGMSが使えるのは常勤の熟練した医師2名以上のいる施設ということでまだ当クリニックでは導入できませんが、「低血糖のリスクの高いひとはHbA1c7前後を目標に、かつ低血糖を起こしにくい薬を選択」「低血糖のリスクの低い人はHbA1c6以下を目標に」「血糖ピーク時間を考慮にいれた治療方針」「食後や明け方の自己血糖測定推進」などをこころがけて診療に当たりたいと思います。

2010年3月

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